DSM
結果:均平精度(2018年)
試験サイトでは、代かきを行った後に泥が沈着するまで待ってから、水を落とし土壌が見える状態になるようにしています。これは、代かき後の圃場を測量するためです。
3年間実施していることもあって、近所の農家さんから不思議がられることもなくなりました。
代かき後のオルソ画像(2018年5月18日撮影)
圃場の北側では、ほんの少し水が残っています。一方、南側(明るく写っている部分)は水が抜けています。圃場にいくつかの線条の跡が残っていますが、これは鳥などの足跡になります。畦畔を超えて、隣の圃場(北側)までつながっています。
水がある程度なくなった状態で、ドローン計測による圃場の均平精度(凹凸の定量化)を求めました。その結果、2018年は均平精度:1.2cm・最大高低差:5.1cmとなりました。過去最高の結果です(といっても5回しかデータはありませんが・・・)。
過去の記事にも書きましたが、移植栽培で目標とする均平精度は標準偏差:1.8cm・最大高低差:9.0cmが目標値となっています(農林水産省)。
下に2016~2018年の代かき後の圃場凹凸マップを示します。
ⅰ) 代かき後の凹凸マップ(2018年)
ⅱ) 代かき後の凹凸マップ(2017年)
ⅲ) 代かき後の凹凸マップ(2016年)
2014~2018年における均平精度の変遷
試験サイトの均平精度は、2014年が標準偏差:2.6cm・最大高低差:10.2cmに対して、2015年は標準偏差:1.8cm・最大高低差:7.5cm、2016年は標準偏差:1.4cm・最大高低差:6.1cmとなり,年々圃場内の高低差は小さくなっています。トラクターの操縦経験を積むことで、
【参考】
2014~2017年までの均平精度と玄米タンパク含有率との関係を、濱ほか(2018):UAVリモートセンシングおよび登熟期の気象データに基づく玄米タンパク含有率推定 にまとめています。
農閑期の圃場計測
2018年度の栽培に向けて始動です。
昨年の秋に「すき込み」をしてから、久しぶりのトラクター運転になります。
田起こし作業の前に、ドローンによる圃場計測を行いました。ドローンは農閑期にメンテナンスを施し、いつでも飛行できるように準備をしていたのですが、GCP用のマーカーが色あせているのに気づいてしまいました・・・。
再塗装前後のGCP用マーカー
上図の右側はドローン水稲モニタリングを始めてから使用しているマーカーです。長年使用していると色があせたり、剥がれたりしてしまいます。この程度であれば、上空から撮影しても特に問題ないのですが、気分一新ということで再塗装し直しました(下図参考)。
上空50mから撮影したGCP用マーカー(左:2018年3月31日撮影 右:2017年9月9日撮影)
昨年のブログを見直してみると2月中旬に田起こしをしていたので、今年は少し遅い始動となります。まずは、田起こしの前に圃場の状態をドローンを用いて計測しました。
圃場凹凸マップ(田起こし前:2018年3月31日撮影)
最近は、圃場の均平化に力を注いでいるので、そこまで気になる凹凸はありませんでした(圃場の四隅やトラクターの出入り口を除いて)。この作成したマップは、運転席に貼って凹凸の位置を意識しながら田起こし&均平化を行いました。
圃場凹凸マップ(田起こし後:2018年4月1日撮影)
上図は作業後の凹凸マップです。マップを見る限り、そこそこ良い感じであると思います。これなら今年の代かきはそんなに作業時間がかからないかもしれません。ベテラン農家さんの「この圃場の均平化は3~4年かかるよ」のアドバイスの通りで、この状態になるまで時間がかかりました。
ドローン水稲モニタリングも今年で5年目の節目を迎えます。これからも「どろーん米」の作業記録を兼ねた情報を発信していきたいと思います。
相棒(ドローン、トラクター)
倒伏の定量化
以前にも紹介したように、コシヒカリは稲穂が垂れやすく、倒伏しやすい品種になります。
今年の「どろーん米」は、8月19日の降雨(約67mm)をきっかけに、出穂2週間前に診断した高リスク箇所から徐々に倒伏が進んでいきました。
今回はモニタリングデータから倒伏の定量化について、少しまとめてみました。
まず、イネが倒伏してしまうと、農機具による収穫が難しくなります。
我が家ではコンバインを所有しているので今まで気にしていませんでしたが、農作業を外部に委託した場合、倒伏した圃場では標準料金とは別に10%~30%程度加算されてしまいます(料金は各自治体によって異なります)。たとえば、島根県邑南町が公開している農作業標準賃金(平成29年度)では、倒伏面積割合で割増料金が以下のように決まっています。
倒伏面積割合 | 0%~30% | 30%~50% | 50%~80% | 80%以上 |
割増 | 規定料金 | 20%増 | 30%増 | 50%増 |
※標準価格:コンバインによる刈取り 10aあたり20,800円
現場では倒伏面積割合をいちいち算出するのは時間がかかるので、担当者の目分量で判断していることがほとんどだと思います。
そこで、刈取り前の空撮データから倒伏面積割合を算出できるか試してみました。
【使用するデータ】
・ドローンによる空撮(可視光:Richo GR)データ(2017年9月8日撮影:刈取り前日)
狭い範囲なら目視で倒伏範囲を特定しても時間はかかりませんが、広範囲に及ぶと目視での範囲特定は手間と時間がかかってしまいます。
リモートセンシングの分野では、古くから画像データを利用した画像分類は得意とするところです。たとえば、JAXAがALOS/ALOS-2の人工衛星から画像分類して作成した高解像度(解像度約10m)の土地被覆図などがあります。
画像分類には「教師なし分類」・「教師付き分類」がありますが、今回はトレーニングデータを必要とせず、画像の特徴量をもとに自動分類を行う「教師なし分類」を選択しました。
ドローンによる空撮画像から作成したオルソ画像を用いて、教師なし分類を行った結果が下図になります。


画像分類結果(2017年9月8日撮影データを使用)
誤分類も多々ありますが、大きく倒伏した範囲の抽出ができているので、倒伏の抽出には教師なし分類も使えることがわかりました。なお、試験サイトの倒伏面積は 517.1㎡ で圃場面積の 15.9% となりました。
画像分類による倒伏範囲の特定は倒伏しているかどうかを抽出する方法で、イネがどの程度の傾きで倒伏しているかはわかりません。
イネの倒伏程度の判断基準は、一般的に倒伏したイネの傾きの大きさを「0(無)」~「5(甚)」の6段階で表すことが多いそうです。
倒伏程度の判断基準
今度は、モニタリング解析で作成するDSMデータを用いて倒伏程度を求めてみます。
使用するデータは、倒伏する直前(出穂期から14日後)と刈取り前日(出穂期から40日後)の2時期のDSMデータです。
【使用するデータ】
・ドローンによる空撮データから作成したDSM
倒伏直前のDSM :2017年8月13日撮影
刈取り前日のDSM:2017年9月8日撮影
倒伏直前のDSMと刈取り前日のDSMの三角関数から角度を求め、倒伏程度に変換した分布図が下図になります。
倒伏前後のDSMから計算した倒伏程度(ラスタデータ)
地点1 倒伏のない状態(ベテラン農家さん)
地点2 倒伏程度の大きい地点(試験サイト)
試験サイトでは倒伏程度の大きい箇所(地点2)が多く見られますが、隣のベテラン農家さんの圃場ではほとんど倒伏(地点1)がありません。
移植日は同じなので、同じ気象条件であるにもかかわらず、結果的に倒伏の差が生じます。これがベテランと新米の違いなのかもしれません...。
2016年から水稲株単位でも解析を行っています。倒伏程度も株単位(2017年:圃場全体で約4.7万株)で計算すると次のようになりました。
水稲株単位の倒伏程度(ポイントデータ)
水稲株単位で求めた倒伏程度別占有率
コンバインによる収穫作業が難しくなるのを「倒伏程度4」と仮定した場合、倒伏割合(倒伏程度4+倒伏程度5)は31.4%(約1.4万株)となりました。
最初で紹介した画像分類による倒伏範囲の抽出より高い結果となります。精度検証として、画像分類によって抽出した倒伏範囲と水稲株単位の倒伏程度で重ね合わせ分析を行った結果、倒伏範囲に含まれる水稲株の約82%が倒伏程度4.5~5となりました。このことから、画像分類による倒伏範囲の抽出は、上空からでも判読しやすい倒伏程度が大きい「4.5~5」を捉えているのではないかと考えられます。
来年こそ、倒伏しないような水稲栽培ができるように頑張ります!!
倒伏リスク診断(2017年)
今年は7月30日に出穂期を迎えましたので、出穂14日前の7月16日のモニタリングデータを利用して、倒伏しやすいコシヒカリの倒伏リスク診断を行ってみました。
倒伏リスク診断の計算方法はこちらに掲載しています。
倒伏リスク診断マップ(2017年)
「7月16日(出穂14日前)のDSM-5月18日(代掻き直後)のDSM」から計算した倒伏リスク診断マップです。橙~赤色は倒伏リスクの高い株で、青色はリスクが低い株になります。今年は圃場の西側(特に南西側)で倒伏リスクが高い結果となっています。昨年は圃場の北側で倒伏リスクが高い結果となり、実際に倒伏してしまいました。草丈のむらが出ないように、圃場の均平化など努力しているのですが、均一に栽培する難しさを実感します。
2017年7月16日空撮のオルソ画像
代かき後のドローン計測(2017年)
ドローン計測は圃場内の凹凸をどのぐらい均平化できたかを定量的に明らかにするのが目的です。また、代かき後に水を張った状態でもドローンによるDSM計測ができるか実験を行いました。
まず、代かき後に水がなくなって土壌が見えている場合のオルソ画像とDSM(陰影図)


2017年5月18日撮影
圃場の均平精度は、圃場内の高さを測定し、それらの結果から算出した標準偏差が均平精度を示します。この標準偏差の値が大きいと圃場内の凹凸のムラが大きくなります。
目標とする均平精度は、湛水直播や乾田直播などといった栽培方法によって異なります。農林水産省の資料によると、移植栽培の場合は標準偏差:1.8cm・最大高低差:9.0cmが目標値となっています。
今回の代かきによる均平精度は、標準偏差:1.3cm・最大高低差:6.9cm となり、今年の均平化も悪くない出来だと思います。(参考:2016年の均平精度 標準偏差:1.4cm・最大高低差:6.1cm)
湛水状態(2017年5月19日撮影)
湛水状態でドローン計測して作成したオルソ画像とDSM(陰影図)


2017年5月19日撮影
この日の気象状態は、ほぼ無風で、時折微風によって水面が波を打つ程度でした。空撮時は全くの無風状態で絶好のデータ取得日でした。
水の透明度の高い箇所では底の土壌まではっきりと見ることができます。一方、泥水が撹拌してしまった箇所(圃場の西側)では土壌を見ることはできません。
これらのデータをSfM-MVS処理でオルソ画像・DSMを作成すると、泥水が撹拌している箇所ではマッチングが上手くいかず、ノイズとしてDSMの精度が落ちています。
下図は「湛水状態のDSM - 水のない状態のDSM」 の差分マップです。
湛水状態のDSM - 水のない状態のDSM マップ
泥水で底が見えなかった箇所でDSMが高い値(ノイズを含む)となったため、水の有無の差分で約10cmの差が生じました(圃場の西南側)。一方、透明度が高かった箇所では湛水状態のDSMが約2~3cmが高い結果となりました。
赤線部分の断面図
赤線部分の断面図の結果から、湛水状態のDSMが一定の高さを示していないので、水面の高さより圃場の高さが影響していると考えられます。水深や水の屈折率を用いて計算すれば、湛水状態でも圃場の高さを取得できる可能性があることが今回の実験でわかりました。
ただし、代かき後(湛水状態)に計測する場合、無風かつ泥が撹拌していない状態でないと精度の良いデータを取得することができないため、撮影条件は結構厳しいと思われます。
来年以降も代かき後は水がない状態で計測するのがベストなのかもしれません。
【手法】3Dモデル作成(SfM-MVS処理)
【手法】ドローン飛行設定で紹介したように、地図を作成する場合の撮影にはルールがあります。隣接する写真の約60%以上が重複するように撮影します。重複部分があることで、撮影した地表面を立体的に見ることができるようになります。
数年前から個人でも3Dモデルを作成できるソフトがいくつか登場しました。例えば、PhotoScan(Agisoft)やPix4Dmapper(Pix4D)などの有料ソフトの他に、無料のVisualSFMがあります。私は操作方法や価格などを検討した結果、PhotoScanを使用しています。
※PhotoScanを購入する際にはProfessional Edition を選択してください。Standard Edition ではオルソ画像・DSMを出力できませんので注意してください。
フローチャート(3Dモデル作成)
1) 撮影画像
撮影カメラにはRicho GRおよびCanon S110(近赤外改造カメラ)を使います(2015年以降)。30a程度の圃場であれば、上空50mを約6分の飛行時間で300枚程度撮影できます(Richo GRでインターバル1秒設定)。この撮影した画像のうち、ブレの小さい画像のみを使用します。PhotoScanでは、画像の品質を 「0~1」で 数値することができます。高品質の画像は1に近い数値を示します。反対に、ブレの大きい低品質の画像は0に近くなります。


左:高画質(0.92) 右:低画質(0.65)
(2016年7月21日撮影 Richo GR)
基準点(GCP:Ground Control Point)の位置座標設定
3Dモデルに位置情報を付与するために、撮影した画像の基準点に位置座標を設定します。下図は上空50mから撮影した基準点+対空標識です。
PhotoScanでの基準点設定
2015年以降はTS測量の計測値を使用しているので、高精度な3Dモデルが作成できます(誤差は数cm)。
2)SfM-MVS 処理
撮影した画像をPhotoScanで処理していくのですが、作業工程のほとんどが自動化されているので、簡単に3Dモデルを作成することができます。数時間程度で処理が完了するので、観測した当日にはモニタリング結果を手にすることができます。
SfM-MVS 処理の結果
3)3Dモデル(オルソ画像・DSM)
位置座標を付与した3Dモデルからオルソ画像・DSMを出力することができます。モニタリングデータの解析では、生育状況の判断にオルソ画像、倒伏リスク診断にDSMを使用します。
可視光域、近赤外域で撮影後、作成したオルソ画像・DSMはGIS(Geographic Information System:地理情報システム)で解析し、管理していきます。GISは地図を表示するだけではなく、解析結果などを地図として可視化することができ、生育状況の判断に使用します。
フリーソフトの「QGIS」で水稲モニタリングの解析を十分に行うことができます。
QGISによるモニタリング結果の可視化
倒伏進行中・・・
前回の記事から「どろーん米(コシヒカリ)」の倒伏が進んでしまいました。
倒伏リスク診断でリスクありの箇所が中心です。診断が当たったのはよかったのですが...ちょっと複雑な心境です。
週末(10・11日)の稲刈りまであと僅かの時間ですが、台風13号(MALOU)の接近が心配です。
9月3日に実施したモニタリング結果を紹介します。
2016年9月3日撮影 オルソ画像(紫線は倒伏エリア(軽度~重度を含む))
倒伏リスク診断マップに倒伏エリア(160903時点)の重ね合わせ
倒伏リスクが高い赤色を中心に、重度の倒伏傾向が見られます。
上空50mからの撮影画像:ハート型倒伏
(クリックすると大きい画像が開きます)
倒伏リスク診断
コシヒカリは稲穂が垂れやすく、倒伏しやすい品種になります。そもそも、倒伏は稲穂が地表面に着くほど倒れる状態を指します。倒伏して、稲穂が地表面の水に着いてしまうと,収量の低下や機械による収穫困難、食味の低下などの問題が生じ,生産者にとっていいことはありません。
そのため、倒伏のリスクがある箇所については,事前に倒伏軽減剤の散布や倒伏前に刈取りを行うなどの対応が必要となってきます。
コシヒカリは、草丈が幼穂形成期で70cmを越える場合,または出穂13~14日前で84cm以上であると,倒伏のリスクが高まるとされています(水稲栽培管理情報:JA金沢市版)。ただし、この数値については、埼玉県でも用いることができるかは検討の余地はあります。
下の倒伏リスク診断マップは、「出穂14日前のDSM-代掻き直後のDSM」から計算した図です。今年は、水稲株位置を求めたので株ごとに倒伏リスク診断を行いました(全部で約5.1万株)。赤色は倒伏リスクの高い株で、青色はリスクが低い株になります。
倒伏リスク診断マップ
冠水後に撮影したオルソ画像
(稲の色が若干変化しているところが倒伏している箇所)
スライドバーを動すと、倒伏リスクが高い場所と実際に倒伏してしまった場所の対応が確認できます。


今年の稲刈りは9月10~11日を予定しております。まだ、1週間ちょっとの時間があります。それまでの間に、さらに倒伏が進まないことを祈るばかりです。
雑草抽出
ドローン水稲モニタリングは試験サイト(約3反)の他にも行っています。
すぐ隣の圃場で大きさは約1反程度です。この圃場は試験サイトと全く同じ手法(肥料等も同じ)で栽培しています。
最近、小さい方の圃場では雑草が目立ち始めてきました。
小さい圃場も6月上旬に除草剤を散布しましたが、散布後に強風によって風下側に流されてしまいました。そのため、若干土壌が高いところでは雑草が発生してしまいました。
ちなみに、試験サイトは翌日(風が弱い)に散布したため、目立った雑草は発生していません。
下の写真は圃場内部に入って取り除いた雑草です。現在までにバケツ4杯分を除去しましたが、全く追いついていません。
取り除いた雑草バケツ1杯分(作業着は泥だらけ)
今回はモニタリングによって雑草がどのように撮影されているかを紹介します。
下の画像は可視画像・近赤外画像・DSM(地表面の高さ:草高)になります。可視画像・近赤外画像において、雑草が発生している部分は周辺の水稲と比べると明らかに色が異なります。また、DSMで見ても水稲の草高より雑草は高くなっていることがわかります。
図 雑草抽出位置(左:可視画像、中央:近赤外画像、右:DSM)
クリックすると大きい画像サイズで確認できます。
下の写真は雑草を抽出した場所を地上から撮影したものです。
タイヌビエ(雑草を見やすくするために画像を加工)
クサネム(雑草を見やすくするために画像を加工)
以前、紹介した水稲株位置を用いれば水稲と雑草の区別ができるので、雑草の位置および生育状況の把握は可能だと思います。しかし、今回のように雑草が生育してしまうと、取り除くのはかなりの労力が必要となります。