Month: 10月 2017
台風21号による内水氾濫
先日、日本縦断した台風21号(LAN)は埼玉県坂戸市にも爪痕を残していきました。下のパノラマ写真のように葛川の内水氾濫によって自宅周辺は冠水してしまいました。2015年から3年連続の冠水になります。2015年は鬼怒川に大きな被害をもたらした平成27年関東・東北豪雨、2016年は台風9号によって氾濫しています。全く嬉しくありませんが、毎年恒例になりつつあります。ただ、今回は既に収穫を終えた後だったため、農作物についての心配はありませんでした。
氾濫のピーク(2017年10月23日6時30分 自宅屋上から撮影)
この場所は、高麗川・越辺川・葛川の三川合流になり、合流地点には高麗川・越辺川からの逆流による浸水被害を防ぐために水門が建設されています。しかし、高麗川・越辺川の水位が上昇すると、水門を閉じるため堤内地を流れる葛川からの水が下流に排水されず、内水氾濫が発生してしまいます。パノラマ写真の奥の方に写っているのは高麗川になります。高麗川もあと少しで氾濫危険水位までの高さに達するところでした。
高麗川・越辺川・葛川の位置(背景地図:地理院地図)
葛川水門(2017年10月23日12時撮影)
しかし、これだけ毎年のように氾濫が発生すると今後の心配は尽きません。約30年前に上流に位置するにっさい花みず木地区で大規模な宅地開発が始まりました。それまでの田畑から住宅地・商業地・工業地などに土地利用が大きく変化しました。
今回の氾濫は日本テレビ系列で全国に放送されました。この周辺の氾濫は同じ市内の人でも知らない人が多いので、いろんな人に知ってもらう機会になったかと思います。
取材中の様子
倒伏の定量化
以前にも紹介したように、コシヒカリは稲穂が垂れやすく、倒伏しやすい品種になります。
今年の「どろーん米」は、8月19日の降雨(約67mm)をきっかけに、出穂2週間前に診断した高リスク箇所から徐々に倒伏が進んでいきました。
今回はモニタリングデータから倒伏の定量化について、少しまとめてみました。
まず、イネが倒伏してしまうと、農機具による収穫が難しくなります。
我が家ではコンバインを所有しているので今まで気にしていませんでしたが、農作業を外部に委託した場合、倒伏した圃場では標準料金とは別に10%~30%程度加算されてしまいます(料金は各自治体によって異なります)。たとえば、島根県邑南町が公開している農作業標準賃金(平成29年度)では、倒伏面積割合で割増料金が以下のように決まっています。
倒伏面積割合 | 0%~30% | 30%~50% | 50%~80% | 80%以上 |
割増 | 規定料金 | 20%増 | 30%増 | 50%増 |
※標準価格:コンバインによる刈取り 10aあたり20,800円
現場では倒伏面積割合をいちいち算出するのは時間がかかるので、担当者の目分量で判断していることがほとんどだと思います。
そこで、刈取り前の空撮データから倒伏面積割合を算出できるか試してみました。
【使用するデータ】
・ドローンによる空撮(可視光:Richo GR)データ(2017年9月8日撮影:刈取り前日)
狭い範囲なら目視で倒伏範囲を特定しても時間はかかりませんが、広範囲に及ぶと目視での範囲特定は手間と時間がかかってしまいます。
リモートセンシングの分野では、古くから画像データを利用した画像分類は得意とするところです。たとえば、JAXAがALOS/ALOS-2の人工衛星から画像分類して作成した高解像度(解像度約10m)の土地被覆図などがあります。
画像分類には「教師なし分類」・「教師付き分類」がありますが、今回はトレーニングデータを必要とせず、画像の特徴量をもとに自動分類を行う「教師なし分類」を選択しました。
ドローンによる空撮画像から作成したオルソ画像を用いて、教師なし分類を行った結果が下図になります。
画像分類結果(2017年9月8日撮影データを使用)
誤分類も多々ありますが、大きく倒伏した範囲の抽出ができているので、倒伏の抽出には教師なし分類も使えることがわかりました。なお、試験サイトの倒伏面積は 517.1㎡ で圃場面積の 15.9% となりました。
画像分類による倒伏範囲の特定は倒伏しているかどうかを抽出する方法で、イネがどの程度の傾きで倒伏しているかはわかりません。
イネの倒伏程度の判断基準は、一般的に倒伏したイネの傾きの大きさを「0(無)」~「5(甚)」の6段階で表すことが多いそうです。
倒伏程度の判断基準
今度は、モニタリング解析で作成するDSMデータを用いて倒伏程度を求めてみます。
使用するデータは、倒伏する直前(出穂期から14日後)と刈取り前日(出穂期から40日後)の2時期のDSMデータです。
【使用するデータ】
・ドローンによる空撮データから作成したDSM
倒伏直前のDSM :2017年8月13日撮影
刈取り前日のDSM:2017年9月8日撮影
倒伏直前のDSMと刈取り前日のDSMの三角関数から角度を求め、倒伏程度に変換した分布図が下図になります。
倒伏前後のDSMから計算した倒伏程度(ラスタデータ)
地点1 倒伏のない状態(ベテラン農家さん)
地点2 倒伏程度の大きい地点(試験サイト)
試験サイトでは倒伏程度の大きい箇所(地点2)が多く見られますが、隣のベテラン農家さんの圃場ではほとんど倒伏(地点1)がありません。
移植日は同じなので、同じ気象条件であるにもかかわらず、結果的に倒伏の差が生じます。これがベテランと新米の違いなのかもしれません...。
2016年から水稲株単位でも解析を行っています。倒伏程度も株単位(2017年:圃場全体で約4.7万株)で計算すると次のようになりました。
水稲株単位の倒伏程度(ポイントデータ)
水稲株単位で求めた倒伏程度別占有率
コンバインによる収穫作業が難しくなるのを「倒伏程度4」と仮定した場合、倒伏割合(倒伏程度4+倒伏程度5)は31.4%(約1.4万株)となりました。
最初で紹介した画像分類による倒伏範囲の抽出より高い結果となります。精度検証として、画像分類によって抽出した倒伏範囲と水稲株単位の倒伏程度で重ね合わせ分析を行った結果、倒伏範囲に含まれる水稲株の約82%が倒伏程度4.5~5となりました。このことから、画像分類による倒伏範囲の抽出は、上空からでも判読しやすい倒伏程度が大きい「4.5~5」を捉えているのではないかと考えられます。
来年こそ、倒伏しないような水稲栽培ができるように頑張ります!!