倒伏リスク診断
コシヒカリは稲穂が垂れやすく、倒伏しやすい品種になります。そもそも、倒伏は稲穂が地表面に着くほど倒れる状態を指します。倒伏して、稲穂が地表面の水に着いてしまうと,収量の低下や機械による収穫困難、食味の低下などの問題が生じ,生産者にとっていいことはありません。
そのため、倒伏のリスクがある箇所については,事前に倒伏軽減剤の散布や倒伏前に刈取りを行うなどの対応が必要となってきます。
コシヒカリは、草丈が幼穂形成期で70cmを越える場合,または出穂13~14日前で84cm以上であると,倒伏のリスクが高まるとされています(水稲栽培管理情報:JA金沢市版)。ただし、この数値については、埼玉県でも用いることができるかは検討の余地はあります。
下の倒伏リスク診断マップは、「出穂14日前のDSM-代掻き直後のDSM」から計算した図です。今年は、水稲株位置を求めたので株ごとに倒伏リスク診断を行いました(全部で約5.1万株)。赤色は倒伏リスクの高い株で、青色はリスクが低い株になります。
倒伏リスク診断マップ
冠水後に撮影したオルソ画像
(稲の色が若干変化しているところが倒伏している箇所)
スライドバーを動すと、倒伏リスクが高い場所と実際に倒伏してしまった場所の対応が確認できます。
今年の稲刈りは9月10~11日を予定しております。まだ、1週間ちょっとの時間があります。それまでの間に、さらに倒伏が進まないことを祈るばかりです。
氾濫後(台風9号)の様子
台風9号による内水氾濫によって、試験サイトは完全に冠水してしまいました。
農林水産省の資料によると、冠水時間が2日以上になると被害が大きくなります。その点、試験サイトは翌日には水が引いたので、安心しました。
ただし、強風・豪雨・冠水によって、一部の箇所では倒伏してしまいました。それ以外の目立った被害はキラキラ(防鳥)テープの切断、圃場内のゴミなどでした。
倒伏した箇所は草丈が高いところになります。この箇所は出穂2週間前のモニタリングで、草丈が一定の値より高く、倒伏リスクの高い場所でした(算出方法は後日説明します)。
試験サイトにおける倒伏の様子
倒伏し、地面(水)に接してしまった稲は品質が低下するため、収穫の際には別に分けて刈り取ります。
試験サイトと別の圃場でも倒伏が生じました。
西圃場(試験サイトとは別)における倒伏の様子
氾濫というイベントが発生しても隣のベテラン生産者の圃場では、倒伏が生じていません。まだまだ自分の勉強不足および未熟さを実感してしまいます。
台風9号による被害
千葉県に上陸した台風9号は、埼玉県にも大量の雨がもたらされました。
昨年に引き続き、今年も圃場近くの河川が氾濫し、試験サイトの水稲は完全に冠水してしまいました。
2年連続の氾濫は、さすがにショックです。近くにある水門は、流域内の洪水被害を軽減するために着工されたのですが、機能を果たしておりません。国土交通省または県の担当部署のみなさん、何とか対処してください(切実な願いです)。
今年は、収穫までに約3週間の時間があります。昨年は収穫直前だったので、品質に問題はありませんでしたが、今年は影響が大きくなると予想されます。また、強い風雨によって、一部水稲が倒伏してしまいました。残念です。
内水氾濫による試験サイト周辺の冠水状況(2016年8月22日撮影)
1枚目撮影後から約10分後の様子(自宅屋上から撮影:2016年8月22日撮影)
最高水位の状態(2016年8月22日撮影)
完全に冠水してしまいました。昨年より今年の方が水位は高くなりました。水が引いた後がどのようになっているかが心配です。
今年の稲刈りも昨年同様に土埃が大量に発生しそうです。
収量予測
収穫まで約1ヶ月を切りました。
今回は2つの手法で2016年度の収量を予測してみたいと思います。
どのぐらい一致するかは未知数なので、楽しみです。
まず、株数・茎数から収量を予測する方法です。
【使用するデータ】
・茎数 : 週一モニタリングで実施中のデータ
・1穂当たりの玄米重量(g/穂) : 昨年の収穫時に計測したデータ
収量(kg) = メッシュごとの株数 × 茎数 × 1穂当たりの玄米重量
茎数 = 20.3 本(2016年8月4時点)
1穂当たりの玄米重量 = 1.50 g(水分15 %)
問題点は全株を同じ分げつとしている点で、生育のばらつきを考慮していないところです。
試験サイト全体の玄米収量予測(地上観測) : 1520 kg
次に、ドローンモニタリングで計測しているNDVIを用いた収量予測方法です。
【使用するデータ】
・ドローン計測によるNDVI(2016年8月4日撮影)
・単位面積あたりの収量とNDVIの相関式(昨年のデータ)
収量(kg) = 昨年度得た係数 × メッシュごとのNDVI
8月4日撮影のオルソ画像
8月4日撮影のNDVI画像(暖色:植生活性が高い、寒色:植生活性が低い)
試験サイト全体の玄米収量予測 (ドローン): 1570 kg
答えは1ヶ月後です。
データは速報値なので、今後の詳細な解析で変更することもあります。
台風7号による被害なし
先日、関東地方に接近した台風7号(CHANTHU)による被害はありませんでした。
昨年は、稲刈り直前に関東・東北地方を襲った豪雨災害(平成27年9月関東・東北豪雨)によって、圃場全体が冠水してしまいました。
当時、雨は小康状態になって安心したのですが・・・自宅近くにある水門ゲートの開閉によって、わずかな時間(数十分)で氾濫状態に陥ってしまいました。
新米兼業農家ながら、精魂こめて作った農作物が被害を受けてしまうと...さすがに落ち込みました...
昨年の氾濫状況(2015年9月9日撮影)
翌日には水は引きましたが、ペットボトルなどといったゴミが圃場内に残ってしまいました。また、水の流れが速かったところは倒伏してしまいました。
水もすぐに引いたので、米の品質には大きな影響はありませんでした(ただ、稲穂に付いた大量の泥が稲刈りの時には土埃となってしまい、大変でした。)
他の所で刈った後の藁が大量に流れ込んだ結果、倒伏してしまった(2015年9月10日撮影)
キラキラテープ
登熟期に入ると、籾殻の中で米粒が形成されていきます。登熟初期の籾殻は柔らかく、中身はミルク状になっています。スズメはこの米のミルクが好きみたいで、よく食べに来ます。
根本的な防鳥対策(農研機構 中央農研)はないみたいですが、試験サイトではキラキラテープ(防鳥テープ)+テグスの組み合わせで対応しています。
防鳥テープ+テグス
防鳥テープを支える支柱は、モニタリングで実施しているメッシュに合わせて設置しています。実は私の水稲モニタリングの研究で,この支柱は重要なツールです。収穫直前には、この支柱を頼りにして、稲のサンプリングする該当メッシュを特定していきます。当初はGPS付のタブレットを用いて、圃場内を歩きながらメッシュを特定しようと試みましたが、やはり位置精度を考えると難しいことわかり、最終的にはトータルステーションで測量した位置に目印を設置しました。
タブレットを持ちながら圃場内での作業は効率がどうしても落ちるので、シンプルなのが一番です。
メッシュの目印は、ホームセンターで売られている蛍光テープ(約300円)と杭(1本約40円)を使っています。蛍光テープは紫外線による色落ちや草刈りによるテープ切断もあるので、定期的に交換します。
メッシュ目印(蛍光テープ+杭)
目印をもとに支柱を設置
本田防除(殺虫)
今年度、2度目の動噴による本田防除です。
今日は、カメムシ類の防除になります。散布は出穂7日後に行いました。
2度目の散布ということもあって、前回の反省(加圧設定やホースの扱い方)を活かすことができました。
手元のホースの遠隔操作をしながら、動噴散布の様子
散布後の稲
温度観測
近年、夏季における気温上昇にともなって、水稲の高温障害が問題となっています。
高温障害は白未熟粒(米が白く濁る)や胴割れ粒(亀裂が入る)などをもたらし、米の品質を大きく低下させます。米の品質が低下は、検査等級の低下やくず米の増加につながり、生産者にとって何ひとついいことはありません。
既往研究から、高温障害は出穂から登熟初期までの高温によって、米に障害がもたらされます。例えば、登熟期に27℃以上の日平均気温が続くと高温障害が発生し、白未熟粒が増加します。
そこで、今後の栽培において、高温障害に対応するためにも、まずは圃場内の温度環境を知る必要があります。
今回は千葉大学近藤研究室の学生さんと共同で、8月6日~7日(生育ステージは穂揃期)にかけて昼夜連続温度観測を実施しました。
ちなみに、試験サイトは埼玉県坂戸市に位置しているのですが、この地域は「あついぞ!熊谷」と同じぐらい夏季は高温になります。
最寄りのアメダスによる最高気温は6日36.6℃(猛暑日)、7日34.7℃(真夏日)となりました...
【観測項目】
1)圃場中央の温湿度観測
・高さの異なる2箇所に温湿度計を設置し、1分毎に記録。
温湿度計設置
2)熱赤外カメラによる地表面温度観測
・熱赤外カメラをドローンに搭載し、上空100mから2時間ごとに垂直撮影(地上分解能約30cm)。
・改正航空法で夜間のドローン飛行は禁止されているので、夜間は自宅屋上から斜め撮影。
ドローンによる地表面温度観測画像の例(2016年8月7日10時撮影)
3)NDVI
・近赤外カメラをドローンに搭載し、2時間ごとに撮影。
ドローンによる近赤外撮影
(視線の先には、点のようなドローン)
現在、これらのデータを解析中ですが、いろいろと面白いことがわかってきました。
結果がまとまり次第、紹介します。
※今回の観測は自宅のガレージを拠点に実施したので、機材や食事などの融通が利き、無事に観測を終えることができました。
出穂期
今年は8月4日に出穂期を迎えました。ほぼ例年通り(8月3日前後)です。
出穂期は全体の4~5割程度の穂が出穂した時期になります。
稲が出穂すると、次々に穂の上部から開花していきます。
開花している時間はおよそ2時間程度です。その間に、おしべの先から花粉が飛び散り受粉(自家受粉)し、受粉が終わると30分程度で花は閉じます。
開花の様子(2016年8月4日撮影)
2014年から実施している水稲モニタリングで得た知見では、出穂期以降のモニタリング情報によって以下のようなことがわかってきました。
・収量推定:出穂期に取得したNDVI
・タンパク質含有率推定(食味):出穂期から約2週間までに取得したNDVI
さっそく、今年もデータ整理ができ次第、推定してみたいと思います。
今年は、株間を18cmで移植しました(昨年まで株間16cm)。
週一のドローンによるモニタリングと同時に、地上では草丈・茎数の調査も実施しています。
1株あたりの茎数は、2014年15.5本、2015年17.5本でしたが、今年は茎数は20.3本となっています。株間の間隔を広くしたことが影響していると思います。
試験サイトにおける1株当たりの茎数の時系列変化
1株当たりの茎(2016年8月4日撮影)
今年は昨年より茎の見た目が違い、茎がしっかりとした太さとなっています。
本田防除(殺菌)
今年の1月にJAの展示会で購入した「動噴(自走式ラジコン動力噴霧機)」を初めて使用しました。本番前にも少し練習をしたのですが、実際の圃場で使用するといろいろと学ぶことがありました。
使用した動噴はラジコンタイプとなっており、手元のリモコンでホースの巻取・送出の命令ができます。送出のタイミングも当初は上手くできず、立ち止まっては動かすの繰り返しで、スムーズにできませんでした。
散布は雨天の日には実施できないため、気温35度近くまで上昇した真夏日の今日に実施しました。実施したのは6反ですが、予想以上に重労働です...。広い圃場ほどドローンの農薬散布が便利だなぁと身をもって知りました。
今年デビューの動噴
今年の水稲は例年通りに生長しており、8月3日前後には出穂期を迎えそうです。
今日は、いもち病や内頴褐変病等に対する防除を兼ねた予防散布を行いました。タイミング的には出穂3~4日前がベストだそうです。
散布の様子
畦畔からでは全体を均一に散布できないので、圃場内に入って実施します。中干しをしっかりしても歩くと足元は不安定です(この時期は湛水状態)。
ノンブラスフロアブル