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【報告】台風19号(T1919)による葛川氾濫

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ここ1カ月以上、ドローンモニタリングなどに関する記事を書いていませんが・・・今回の葛川氾濫について記録を残すことを目的に、簡単な報告書をまとめました。本文については、日本地理学会災害対応委員会で公開されています。

各地で水害が発災した翌日の10月14日夜に国土地理院が荒川水系(入間川・越辺川・都幾川)の浸水推定段彩図を公開しました。

国土地理院が作成した荒川水系(入間川・越辺川・都幾川)の浸水推定段彩図(速報)に加筆

 

この地図は、13日10時および12時頃に航空機から撮影した情報などをもとに作成されています。しかし、葛川流域については残念ながら航空機の撮影外でしたので、浸水深推定地図も範囲外でした。そのため、葛川氾濫の情報がないというはあまりよろしくないので、ドローン空撮を用いて葛川氾濫の浸水範囲・浸水深推定地図を作成してみました。

 

葛川氾濫の範囲および浸水深の推定

浸水範囲・浸水深を推定するにあたって、土手沿いに漂流した稲藁や泥など手掛かりにして行いました。漂流物(最大水位時)の標高をRTK-GNSS測量およびドローン空撮から算出しました。

高麗川・葛川の堤防に付着した泥および漂流物から最大水位時の標高値を計測

 

発災してから3日後にドローンで空撮した画像から最大水位時の標高値を求めた結果、高麗川25.3m・葛川24.8mになりました。最大水位時の標高値が求められれば、国土地理院が公開している高解像度DEMを用いることで浸水深・範囲を推定することができます。

最大水位時の標高値とDEMの差分で浸水深を推定

台風19号による葛川氾濫の浸水範囲・浸水深推定地図

大きい地図で表示(地理院地図)

 

葛川水門近くの田畑で約3mの最深値となり。浸水面積は70.2haとなりました。このうち田畑などの浸水面積は50haですが、国土交通省が災害情報の速報として公開している田畑などの浸水面積では25haとなっているので、その倍の面積が浸水していることがわかりました。

次に、浸水量を計算した結果、葛川氾濫における浸水量は約90.4万㎥となり、大量の水が堤内地に一時的に滞留したことによって、新ヶ谷地区・東和田地区・戸口地区・沢木地区の建物に被害を及ぼしました。

 

葛川氾濫のタイムラインは下記に掲載。

 

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台風19号(T1919)による被害状況4

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11月9日に埼玉県知事、自民党県議団の議員による被害が大きかった越辺川(川越市)、葛川水門(坂戸市)、都幾川(東松山市)の現地視察がありました。

高麗川の土手から葛川の内水氾濫を視察(2019年10月13日15時)

 

葛川は昔から氾濫しているので、地元では葛川改修工事促進期成同盟会を結成し、葛川を管理する埼玉県飯能県土整備事務所に浸水対策に関する要望を行ってきました。既に葛川放水路(2009年)などの建設をはじめ堤防嵩上げ工事(2019年度事業中)が実施されています。

現在、越辺川・高麗川・葛川の合流地点に位置する葛川水門には排水機場がないため、水門を閉鎖すると30分ぐらいで集落の冠水が始まります。そのため、排水機場の設置は流域住民の悲願ですが、なかなか難しい状況でもあります。

葛川(埼玉県管理)の水は越辺川(国管理)に流れ、川越で入間川に合流し、さらに荒川として東京湾に流れ込みます。今回の台風19号による越水決壊で明らかになったように、既に越辺川の許容量がオーバーな状態で、葛川の水をさらに受け入れられる余裕があるのか課題も残ります。

現状では、下流域を守るために上流域が犠牲になっているのですが、反対に上流域を守るために、人口が多い下流域に氾濫の危険性を押し付けてもいいのか・・・まさにトロッコ問題です・・・。

 

木下たかしさん(坂戸市選出の県議会議員)は葛川の氾濫問題について長年取り組んでいます。今回の地元住民からの要望も受けて、より活発に動いてくれています。被災した住民の声を行政機関に届けてくれるのは、住民の一人として感謝です。

 

台風19号(T1919)による被害状況3

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今まで後回しにしてきた農機具関係をそろそろチェックしなければいけません。

今回の氾濫で唯一水没から救うことができた農機具は耕うん機のみです。浸水が始まって徐々に水位が上昇してきたころ、軽油・ガソリンなどの燃料が流されないか気になり、保管場所を見まわりに行きました。いつもは素通りしている耕うん機がなぜか偶然目に入ってきました。このままでは水没してしまうと思い、軽トラの荷台の上まで持ち上げ、避難完了です(荷台に避難してもエンジン下まで水没)。今考えると火事場の馬鹿力ですね。普段はこんな重い農機具を持ち上げることはできないので・・・。

避難して、完全な水没から免れた耕うん機。一方、軽トラは廃車です。

 

水没してしまった農機具は、発災直後からずっと乾かしている状態です。

トラクターは運転席内部まで水が侵入。コンバイン 、田植機も同様です。穀物乾燥機は基盤まで水没しなかったのですが、ヒーター部分が水没。籾摺機は完全に水没しました。

トラクターに残った浸水痕

 

表 水没した農機具一覧

農機具水没状況現在の状況
トラクター運転席まで水没エンジン始動の確認のみ
田植機エンジンまで水没乾燥中
コンバインエンジンまで水没エンジン始動 / 刈取り・こぎ胴は動かず
穀物乾燥機ヒーター部分水没乾燥中
籾摺機完全水没乾燥中
選別計量機ほとんど水没乾燥中
グレンコンテナおよびホース駆動系部分水没乾燥中
動力噴霧機完全水没乾燥中
精米機完全水没乾燥中
草払機完全水没動作確認 / 使用可能
米保管用冷蔵庫保管部分水没動作確認 / 清掃終了後、使用可能
軽トラ運転席まで水没廃車

 

農業を再開 or 離農するにあたっても、まずは現状の把握から始まります。

 

台風19号(T1919)による被害状況2

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前回の記事の続きです。

発災して1週間が経過しましたが、親戚、友人、地元ボランティア(坂戸市議、坂戸市社会福祉協議会)の方々のおかげで、片付けの目処がようやく立ってきました。

朝から晩まで慣れない片付けは、肉体・精神的にも疲労がたまります。特に、発災直後はどこから手をつければいいかわからず途方に暮れ、虚無感に襲われてしまいました...。

農機具等を収納している納屋(2019年10月13日07時)

 

写真右奥にあるもみすり機は完全に水没し、乾燥機も1m程度水没してしまいました。なお、乾燥機は土台が劣化したのか、氾濫後に若干傾いていることがわかりました。復旧までには時間がかかりそうです。また、散らかった段ボールやタオルなど布は、汚水や農機具から漏れたと思われるオイル・燃料が染む込んでしまい、異臭を放っていました。密封されている肥料もわずかな穴から入ったのか?中身が水で溶け、ビニール袋はパンパンに膨れていました。

 

特に、収穫後のどろーん米630kg(21袋)を冷蔵保存していた冷蔵庫は、浸水によって紙の米袋が破け、冷蔵庫内側から漏れ出していました。下側にあった米袋が浸水によって破れることによって、高さが徐々に低くなり、連鎖的に上側の米も汚水に触れてしまいました。その中でも数袋は汚水に触れることもなかったので、その日に救出しました。

新米を保管していた冷蔵庫。水没によって内側から散乱した玄米(2019年10月13日12時)

 

汚水に触れた米は、3日目が経過したごろから発酵が始まり、40℃ぐらい?の発熱と同時に、すえた臭いを発生させました。米の掃除まで、なかなか手が届きませんでしたが、濱くんの助けでなんとか米を堆肥として圃場に移せました。しかし、半年間かけて育てた新米を廃棄するのは本当に無念です。

 

また、片付けをしていると初めて見るようなものにも遭遇しました。3代前が使っていたと思われる明治40年ごろの地理の教科書やその頃の出納帳などが流れ出てきました。

たぶん蔵から流れてきた教科書(2019年10月13日14時)

 

こういった大きな水害のたびに、過去のものが少しずつ無くなっていくのだなぁと感じました。

 

 

台風19号(T1919)による被害状況1

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10月12~13日にかけて、東日本に大きな被害をもたらした台風19号(Hagibis)は、私の住む埼玉県坂戸市にも爪痕を残しました。

私の住んでいる場所は水害常襲地で、ここ数年の間にも内水氾濫が数回発生しています( 平成27年9月関東・東北豪雨(2015/9/9)台風9号(2016/8/2)台風21号(2017/10/23) )。しかし、今回の台風19号の大雨は、これまでに経験したことのない長時間降り続ける大雨でした。時間が経つにつれて、今までにはない危機感を覚え、まずは乗用車を自宅から離れた場所に避難させました。その後は、自宅の1階の家財や子供たちの大切なおもちゃなどの垂直避難です。

 

台風が伊豆半島に上陸する6時間前の13時頃に、高麗川・越辺川からの逆流が始まったとの連絡があり、葛川の水門ゲートが閉ざされました。この水門ゲートが閉じてしまうと、堤内地を流れる葛川からの水が下流に排水されず、あっという間に氾濫が発生します。河川の位置関係はこちら

下の動画は17時ごろに屋上から撮影した越辺川・高麗川・葛川の合流地点周辺の氾濫の様子です(14日のnews zeroで放送)。この時点では、自宅周辺の浸水深1.5m程度(目測)まで上昇しています。

台風19号(T1919)による越辺川・高麗川・葛川の合流地点周辺の内水氾濫(2019年10月12日16時40分)

 

気象庁の降雨レーダー予想図から、台風中心が通過するまで約5時間・・・これは床上浸水の確率が非常に高いと思い、食事をとる時間も惜しんで運べるものは上へ移動させたのですが、限界がありました。19時ごろになると、下水の逆流の前兆である1階トイレ、キッチンや洗面所といったところから「ボコボコ」と音が聞こえ始め、急いで水のうで対策を施しました。

20時30分ごろから、ついに自宅の浸水が始まりました。1階で最も低い掘りごたつの底からジワジワと水が染み出してきました。21時ごろに停電が発生です。当初は電線が切れたかと思ったのですが、翌日に浸水による室外機の漏電が原因だと判明。漏電箇所のブレーカーを切ればよかったのですが、その時はそこまで頭は回りませんでした。

早く台風が通過してくれと祈っていたのですが、残念ながら1階は床上浸水となってしまいました。

氾濫のピークは台風通過後の25時ぐらいで、その時点では台風が通過した後で雲はどんどん晴れて、月(ほぼ満月)が覗き込んでいました。

自宅屋上から撮影した浸水がピークの時の様子(2019年10月13日01時ごろ)

 

夜明け前には水は引き、わが家の被害全容が明らかになりました。特に被害が大きかったのは、トラクター、コンバイン、乾燥機など農機具一式が水没してしまったことです。完全に乾くまでは触れることができませんが、農機具全滅の場合は今後の事も考えると・・・離農も選択しなければいけなくなるかもしれません。

トラクター・コンバインなどを格納している車庫(2019年10月13日07時)

 

今年収穫したばかりの「どろーん米」は妻が気を利かせてくれ、前日にいくつかを自宅の上に避難させてくれ、水没から免れることができました。妻に感謝です!!

 

後片付けに追われていますが、被害記録も忘れないうちに綴っていきたいと思います。

 

速報値:2019年収量

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連休を使って、稲刈り&籾摺りを行いました。天気予報では雨となっていたので、刈り取りができるか心配でしたが、なんとか無事に収穫できました。

雨が降りそうな天気での稲刈り

 

さて、1ヶ月前に投稿した収量予測の答え合わせです。収量予測では、前年並みの収量と予測したのですが、結果は…以下の通りになりました。

試験サイト全体の精玄米収量 :1438.2 kg(465kg / 10a)

収量予測との誤差 約64kg (4.3%)

2018年と比べると減収になりました。やはり、幼穗形成期の日照不足が大きく影響していると考えられます。ちなみに、2018年(猛暑パラメータ)で計算すると、精玄米収量:1610 ㎏と大きく外れてしまいます。今年は2016年の天候と傾向が似ていたことから、2016年パラメータを使用しましたが、さまざまな天候に対応するにはデータの蓄積が必要です。ドローンモニタリングを2014年から始めていますが、まだ5年分のデータしか蓄積ができていないので、予測モデルの精度が満足できる状態になるまではもう少し時間がかかりそうです。

ドローン運用開始からのコシヒカリ収量(10a当たりの精玄米収量)およびタンパク質含有率の結果

 

これまで増収を続けていましたが、2019年で記録はストップしてしまいました。来年は増収できるように栽培方法をちょっと見直してみたいと思います。

 

台風15号(1915)

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千葉県や横浜などで甚大な被害を与えた台風15号ですが、坂戸では幸いなことに大きな被害はありませんでした。ただ、私としてはコメの収穫直前であったので、強風による倒伏や河川の内水氾濫が心配でした。

今年は幼穗形成期の日照不足による生育不良で草丈が例年より低い状態だったので、出穂15日前の倒伏リスク診断でも倒伏のリスクは低く、倒伏なしで収穫できると期待したのですが・・・、残念ながら台風の北からの強風で一部倒れてしまいました。

 

今回の台風では鉄道の計画運休のニュースもあったので、前日から会社に出社して常にライブカメラで圃場の様子を見ていました。こういう時にライブカメラは便利ですね。また、頻繁に発生する内水氾濫ですが、今回はギリギリのところで被害を免れました。もう少し降雨があったなら、イネは冠水していました。

赤色の矢印が堤防の最頂部。水位がギリギリのところまで迫った

国土交通省が運営する河川ライブカメラ【葛川:葛川合流点(荒川水系)】

 

ちなみに、ここ数年における内水氾濫による冠水状況
台風21号(2017/10/23)
台風9号(2016/8/2)
平成27年9月関東・東北豪雨(2015/9/9)

毎年、氾濫しないか心配をしていますが、今年は心強い知らせを聞きました。坂戸市が昨年度の予算で排水車を購入しました。ありがたいことです。

氾濫に備えて葛川水門で待機している排水車

 

収量予測(2019年)

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2019年は梅雨の影響で、分げつ期〜幼穂形成期〜穂ばらみ期の日照時間が記録的に少ないのが特徴です。モニタリングを開始した2014年からの気象データを見ると、2019年の傾向は2016年に類似していることがわかります。なお、積算日照時間の数値では2017年とほぼ等しいのですが、分げつ期〜幼穂形成期〜穂ばらみ期の傾向が異なるので、今回は2016年を使いました。

(アメダス:鳩山地点を用いて作成)

移植日からの積算日照時間(2014~2019)

 

2016年の収量パラメータを使って、2019年の収量予測を行ったところ、以下のような結果となりました。

試験サイト全体の玄米収量予測 (ドローン): 1502 kg

 

10aあたりでは486kg/10aです。この結果から、2019年の収量は2018年とほぼ同じぐらいの収量が見込めそうです。

 

結果はもうすぐです。

 

出穂期(2019年)

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8月4日前後に出穂期を迎えると予想しましたが、梅雨明け後の猛暑で少し早まり、試験サイトでは8月2日に出穂期となりました。

イネの出穂(2019年8月2日撮影)

水稲モニタリングを始めてから記録を残すようにしていますが、2019年は移植してから出穂期まで76日間となりました。梅雨明けが平年より1ヶ月程度早く、猛暑が続いた2018年は70日間だったので、昨年よりは約1週間生育が遅くなっています。ただし、2014年~2018年の過去5年間のデータでみると、2019年は約3日の遅れとなります。なので、そこまで生育が遅くなったとは言えません。

移植日~出穂日の積算日照時間・積算温度

移植日出穂期日数積算日照時間(h)積算温度(℃)
20195月18日8月2日76
337.8
1749.6
20185月19日7月27日70480.91699.0
20175月21日7月30日71399.81697.6
2016 5月21日8月4日76381.31774.5
2015 5月23日8月3日73427.81742.1
20145月24日8月3日72400.41714.0
Average5月20日8月1日73.0404.71729.5

 

積算日照時間のデータからでも、今年の梅雨の長雨で出穂期までの日照時間が低くなっています。また、積算日照時間・積算温度の傾向としては2016年に類似していることがわかります。2016年の生育状況を考慮して2019年の稲刈りを判断すると、順調にいけば9月14〜16日の連休になりそうです。

 

2019年:本田防除(殺菌)

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毎年、出穂前にいもち病予防の消毒を行います。今年は梅雨の長雨が続き、冷夏とも予報されていたため、消毒散布の実施を判断したのですが・・・結果的には猛暑日が続き、散布する必要がなかったかもしれません。

まだ気温が高くならない朝から散布を実施しようと準備していたところ、突如複数の車や人が試験サイトの裏にある橋に集まり始めました。普段は全く人通りのない場所なので、何事かと近所の人に聞いたら映画の撮影?とのことでした。動噴のエンジン音は大きいため、撮影に迷惑をかけてはいけないと思い、撮影が終わるのを待ちました。関係者の方からワンシーンなのですぐに終わるとのことでしたが、そのための設営準備とか見ていると・・・この業界も大変だなぁと感じました。

撮影準備の様子

撮影も終わり、散布を始めましたが、問題も発生。今年は中干しが不十分だったので、梅雨明け後も水を抜いた状態でした。そのため、ホースを水の中で引っ張ることが出来ず、100mもホースを伸ばすと自身の重みと土との摩擦が加わって、思うように散布できませんでした・・・。毎年学ぶことがあります。