NDVI
【カメラ】改造近赤外カメラ
近赤外カメラは植生や雪氷などの分野では、重要な情報の取得ツールとなります。稲などの植物の葉は近赤外の波長を強く反射し、反射の強弱で植物が元気であるかを判断することができます。しかし、市販されている多くの近赤外カメラは高価(数十万円)です。私のモニタリングの基本コンセプトは「低コスト」です。あまり馴染みがない近赤外カメラは市販のコンデジを改造することで、コストを抑えて作ることができます。ここでは、近赤外カメラに改造する手順を紹介していきます。
市販コンデジは最新機種を用意する必要はありません。自宅に眠っているカメラでも十分です。
私が近赤外カメラとして使用しているのは、中古品(約2万円)で購入したCanon S110です。旧型機種は発売してから時間が経過しているので、中古市場で安く入手できます。また、ドローンが墜落してカメラが破壊・故障しても精神的負担が大きくないというメリットもあります。
1) 機種確認
改造したいコンデジのイメージセンサが近赤外までの感度を持っているかを確認します。機種によって近赤外の撮影に適さないものもあります。
テレビ等のリモコンをカメラレンズに向けて、リモコンボタンを押しながら、シャッターを押します。
感度チェック
イメージセンサが近赤外まで感度を持っていると、リモコンの送信部が明るく写ります。この部分が暗いと、そのカメラはあまり感度がないことになります。
2) カメラ分解
カメラ本体のネジを外し、分解していきます。ネジは大変小さいので、紛失しないように作業を行います。
コンデジ分解
3) ガラス板除去
イメージセンサを覆うフタを慎重に外すと、センサ前方に薄いガラス板があります。このガラス板は赤外カットフィルタやローパスフィルタの機能を有しています。非常に薄いので、割らないように取り除きます。
その後は、可視光を遮断するIR(Infrared)フィルタ(富士フィルムのIR-78:(約2千円))を準備し、これをガラス板とほぼ同じ大きさで切ります。
※対象物によっては、フィルタの波長を変更した方がいい場合もあります。
4) ピント調整
ガラス板を取り除いたことで、このまま撮影すると光の屈折率などの関係でピントがボケた状態になってしまいます。そこで、ピント補正をするために0.3mmの透明プラ板(約5百円)を用意します。
これをガラス板より約1mmほど大きく切って、IRフィルタと透明プラ板をガラス板があった場所に収めます。
フィルタやイメージセンサ部分に、ほこりや指紋が付かないように慎重に作業を進めます。
後は分解した逆の手順でネジを締めていきます。初めての作業となると約2~3時間程度はかかると思います。慣れてくると数十分ぐらいの終了します。
【注意】カメラを分解すると、一般にメーカー保証が受けられなくなるので注意してください。
改造近赤外カメラの撮影画像
上図は改造したCanon S110をドローンに搭載して、撮影した近赤外画像です。植生からの反射が強い所が白くなって、写っています。
現在は、このカメラをドローンに搭載して、水稲モニタリングを実施しています。
今回紹介した改造などについては、「地理に使える低空撮ガイド6 低空撮で使える工夫、様々なドローン(古今書院 月刊地理)」で紹介しています。
また、カメラの改造をしなくても、NDVI(植生指標)を求めることができるカメラ「Yubaflex」も販売されています。このカメラも軽量なのでドローンに搭載することが可能です。おすすめのカメラの一つです。
【手法】GIS(地理情報システム)
【手法】3Dモデル作成(SfM-MVS処理)で紹介したオルソ画像・DSMをGISを使って解析します。
モニタリング結果の可視化や効率的なデータ管理には、GISが最適なツールです。
一昔前は数百万円する業務ソフトもオープンソースの波によって、無償で使用できるソフト「QGIS」が登場しました。
登場当時はいろいろと不便なところもありましたが、最新版では問題なく使えます。
QGISは http://qgis.org/ja/site/ から日本語版をダウンロードできます。
Windows以外にも対応しています。
ここでは、QGIS(バージョン2.18.1)を用いたメッシュ解析を紹介します。
1) メッシュ作成
空撮画像は高解像度なデータが取得できるため、モニタリング結果は数cm単位で求めることができます。しかし、現場では詳細すぎる情報は役に立たないこともあります(木を見て,森を見ずになってはいけません)。私の圃場では、5m×5mのメッシュを設定し、メッシュ内に含まれるピクセルの平均値をメッシュ代表値として生産管理に活かしています。
メッシュ作成
※QGIS→Vector grid
不必要なメッシュは削除していきます。また、メッシュを回転させて、圃場と一致するように調整します。
圃場の形に合わせた5mメッシュ
※圃場が広大な場合やその他のメッシュデータを組み合わせたい場合には、JIS規格で決められた標準地域メッシュを使うと便利です。
2) NDVI(植生指標)
QGIS→ラスタ計算機で演算ができます。
NDVI = (近赤外画像 - 赤(可視光)画像) / (近赤外画像 + 赤(可視光)画像)
※センサ 可視光をRicho GR、近赤外をCanon S110(近赤外の波長帯を撮影できるように改造)でそれぞれ空撮を実施。
本来なら、放射輝度に変換しないといけませんが、ここでは近似値的にDN(Digital Number)値で計算しています。
NDVI(2016年7月21日)
赤色ほど植生の活性が高く、反対に青色は植生の活性が低い状態を示します
3) メッシュ統計
QGIS→地域統計でメッシュ統計を行います。
※メッシュ内の平均値、最大値、最小値、個数、標準偏差などが計算できます。
計算はボタンを押すだけです。計算後、レイヤを選択して、色を割り当てます。地図は、色彩次第で解析結果の印象も変わるので、適切な色合いを選択するようにしましょう。
NDVIメッシュ(2016年7月21日)
QGISが苦手だった鳥瞰図(3D表示)もプラグインを用いることで、下図のように表示できるようになりました。HTML形式で出力されます。
NDVIの鳥瞰図(2016年7月21日)
収量計算確定(2016年)
先日掲載した地上サンプリングからメッシュごとに単位面積あたりの玄米重量(g/㎡)を求めました。
単位面積当たりの玄米重量は、メッシュ内の株数・1株当たり平均茎数・1穂あたりの玄米重量から計算できます。
求めた玄米重量とNDVI(出穂期)の回帰分析から線形回帰式を求めます。
以下の式は、収量予測に用いた推定式になります。
【2014年】
Y = 968.42 × NDVI – 33.50
【2016年】
Y = 1822.2 × NDVI – 341.43
Y:単位面積あたりの玄米重量(g/㎡)
2016年推定式で計算した収量分布が下図になります。
収量マップ(2016年)
8月中旬に予測したマップと比較すると,分布傾向は似ていますが,多くのメッシュで数量が異なりました。
収穫1カ月前に予測した収量マップ(2016年)
※収穫1カ月前に予測した収量マップ(2016年)は、2015年の推定式を用いて作成しています。
収量検証(2016年)
計算で求めた収量:1461 kg
実際の収量:1437.5 kg
この結果から、2016年の推定式は1.6%の誤差で推定玄米収量を求めることができました。
2014年は5.3%の誤差がありましたが、年々精度は向上しています。
収量結果(2016年)
2016年の収量は10a当たり465 kgとなりました。圃場全体では、1440 kg(屑米を除く)です。
ドローン水稲モニタリングを始めて3年目になりますが、1年目と比べると収量は約20%の増加になりました。また、お米の美味しさの指標となる玄米タンパク質含有率も2015年では約6.1%と日本人が好むやわらかいご飯になっています。2016年はこれから分析です。
ちなみに、一般的な玄米のタンパク質含有率は6.8%とされており、タンパク質含有率が低いほどやわらかいご飯となり、数値が高いとしっかりとした硬いご飯となります。
ドローン水稲モニタリングの成果(2014-2016)
ドローン水稲モニタリングの導入1年目は、これまで行っていた「勘と経験」の水稲栽培の問題点を洗い出しました。2年目以降は浮かび上がった問題点を改善するような栽培を行うことによって、収量・食味の向上に結び付けることができました。収量・食味UPにつなげるためには、単年だけではなく、複数年のモニタリングが必要です。
収穫前に予測した収量(8月19日)は、地上観測による予測1520kg、ドローンによる予測1570kgでした。地上観測の予測値が実測と近い結果となりましたが、両者とも約10%の誤差の範囲内に収まっています。
ドローンによる予測は、2015年のパラメータをそのまま利用したのが誤差を大きくした要因ではないかと考えられます。
今年は株間(16cm→18cm)を変更した影響も考えられるので、様々な状況下のパラメータを取得することによって、今後の予測精度の向上を図りたいと思います。
農作業も一段落した農閑期は、2016年のモニタリングで得たデータを詳細に解析する期間です。
収量予測
収穫まで約1ヶ月を切りました。
今回は2つの手法で2016年度の収量を予測してみたいと思います。
どのぐらい一致するかは未知数なので、楽しみです。
まず、株数・茎数から収量を予測する方法です。
【使用するデータ】
・茎数 : 週一モニタリングで実施中のデータ
・1穂当たりの玄米重量(g/穂) : 昨年の収穫時に計測したデータ
収量(kg) = メッシュごとの株数 × 茎数 × 1穂当たりの玄米重量
茎数 = 20.3 本(2016年8月4時点)
1穂当たりの玄米重量 = 1.50 g(水分15 %)
問題点は全株を同じ分げつとしている点で、生育のばらつきを考慮していないところです。
試験サイト全体の玄米収量予測(地上観測) : 1520 kg
次に、ドローンモニタリングで計測しているNDVIを用いた収量予測方法です。
【使用するデータ】
・ドローン計測によるNDVI(2016年8月4日撮影)
・単位面積あたりの収量とNDVIの相関式(昨年のデータ)
収量(kg) = 昨年度得た係数 × メッシュごとのNDVI
8月4日撮影のオルソ画像
8月4日撮影のNDVI画像(暖色:植生活性が高い、寒色:植生活性が低い)
試験サイト全体の玄米収量予測 (ドローン): 1570 kg
答えは1ヶ月後です。
データは速報値なので、今後の詳細な解析で変更することもあります。
温度観測
近年、夏季における気温上昇にともなって、水稲の高温障害が問題となっています。
高温障害は白未熟粒(米が白く濁る)や胴割れ粒(亀裂が入る)などをもたらし、米の品質を大きく低下させます。米の品質が低下は、検査等級の低下やくず米の増加につながり、生産者にとって何ひとついいことはありません。
既往研究から、高温障害は出穂から登熟初期までの高温によって、米に障害がもたらされます。例えば、登熟期に27℃以上の日平均気温が続くと高温障害が発生し、白未熟粒が増加します。
そこで、今後の栽培において、高温障害に対応するためにも、まずは圃場内の温度環境を知る必要があります。
今回は千葉大学近藤研究室の学生さんと共同で、8月6日~7日(生育ステージは穂揃期)にかけて昼夜連続温度観測を実施しました。
ちなみに、試験サイトは埼玉県坂戸市に位置しているのですが、この地域は「あついぞ!熊谷」と同じぐらい夏季は高温になります。
最寄りのアメダスによる最高気温は6日36.6℃(猛暑日)、7日34.7℃(真夏日)となりました...
【観測項目】
1)圃場中央の温湿度観測
・高さの異なる2箇所に温湿度計を設置し、1分毎に記録。
温湿度計設置
2)熱赤外カメラによる地表面温度観測
・熱赤外カメラをドローンに搭載し、上空100mから2時間ごとに垂直撮影(地上分解能約30cm)。
・改正航空法で夜間のドローン飛行は禁止されているので、夜間は自宅屋上から斜め撮影。
ドローンによる地表面温度観測画像の例(2016年8月7日10時撮影)
3)NDVI
・近赤外カメラをドローンに搭載し、2時間ごとに撮影。
ドローンによる近赤外撮影
(視線の先には、点のようなドローン)
現在、これらのデータを解析中ですが、いろいろと面白いことがわかってきました。
結果がまとまり次第、紹介します。
※今回の観測は自宅のガレージを拠点に実施したので、機材や食事などの融通が利き、無事に観測を終えることができました。
観測方法にメッシュ解析の情報追加
観測方法の項目に、NDVI(植生指標)のメッシュ解析を追加しました。
NDVI画像に5m×5mのメッシュを覆い、5mメッシュ単位で生育状況をモニタリングしていきます。
メッシュ解析
観測方法に情報追加
観測方法の項目に、可視画像・近赤外画像・NDVI(植生指標)・DSM(地表面の高さ)の取得例をそれぞれ掲載しました。
解析には,これらの画像に5m×5mのメッシュを覆い、メッシュ単位で生育状況をモニタリングしていきます。
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近赤外画像取得例 | NDVI取得例 | DSM取得例 |
モニタリングする際に便利なのは、GIS(地理情報システム)ソフトになります。一昔前は数百万円する業務ソフトもオープンソースの波によって、無償で使用できるソフト「QGIS」が登場しました。
登場当時はいろいろと不便なところもありましたが、最新版では問題なく使えます。
QGISは http://qgis.org/ja/site/ から日本語版をダウンロードできます。Windows以外にも対応しています。
水稲モニタリングの解析には十分な機能が含まれています。