収量
2020年収量結果
8月は晴れの日が続いたのですが、9月に入ってから集中豪雨が頻繁に襲ってきました。そのため、刈取りは天気予報を見ながら雨の降らない合間を狙って急遽実施しました。
今まで使っていたコンバインは、令和元年東日本台風(台風19号)による水没によって廃車となり、今年からは新型のコンバインになります。初運転となるので、ヤンマーの担当者さんから操作のレクチャーを受けました。また、実際に刈り取る圃場でも丁寧に教えていただきました。担当者さんも言っていたのですが、梅雨の長雨による不十分な中干し、刈取り前の豪雨で土壌を乾燥することができないといった・・・コンバインの操縦にはハードな土壌状態での刈取りとなりました。
新しいコンバインでの刈取り
今年の出穂期までの積算日照時間は、下図のようにモニタリングを始めてから最も低い値を示しています。そのため、日照不足であった2019年の収量予測パラメータ(日照不足用)を用いて収量を予測しました。
(アメダス:鳩山地点を用いて作成)
2014~2020年の移植日から収穫日まで積算日照時間
それでは、1ヶ月前に投稿した収量予測(予測値:1464 kg、474kg/10a)の答え合わせです。
試験サイト全体の精玄米収量 :1491 kg(483kg / 10a)
収量予測との誤差 約27kg (1.8%)
今年は、ほぼほぼピッタリの予測ができました(ニアピン賞ぐらい)。また、過去の結果から幅を持たせて予測した1464~1512kg(474~489kg/10a)の間には収まりました。ドローン水稲モニタリングを始めてから7年目になるので、いろいろな知見から対応できつつあります。
ドローン運用開始からのコシヒカリ収量(10a当たりの精玄米収量)およびタンパク質含有率の結果
今年はドローン水稲モニタリングを始めて歴代2位の収量となりました。日照時間から見ると2020年は2019年と同様だったので、10a当たり465kgの収量でもおかしくなかったのですが、農閑期に行った土づくりの見直しが功を奏したのかも知れません。
速報値:2019年収量
連休を使って、稲刈り&籾摺りを行いました。天気予報では雨となっていたので、刈り取りができるか心配でしたが、なんとか無事に収穫できました。
雨が降りそうな天気での稲刈り
さて、1ヶ月前に投稿した収量予測の答え合わせです。収量予測では、前年並みの収量と予測したのですが、結果は…以下の通りになりました。
試験サイト全体の精玄米収量 :1438.2 kg(465kg / 10a)
収量予測との誤差 約64kg (4.3%)
2018年と比べると減収になりました。やはり、幼穗形成期の日照不足が大きく影響していると考えられます。ちなみに、2018年(猛暑パラメータ)で計算すると、精玄米収量:1610 ㎏と大きく外れてしまいます。今年は2016年の天候と傾向が似ていたことから、2016年パラメータを使用しましたが、さまざまな天候に対応するにはデータの蓄積が必要です。ドローンモニタリングを2014年から始めていますが、まだ5年分のデータしか蓄積ができていないので、予測モデルの精度が満足できる状態になるまではもう少し時間がかかりそうです。
ドローン運用開始からのコシヒカリ収量(10a当たりの精玄米収量)およびタンパク質含有率の結果
これまで増収を続けていましたが、2019年で記録はストップしてしまいました。来年は増収できるように栽培方法をちょっと見直してみたいと思います。
平均収量の解釈
農林水産省は水稲の平均収量を毎年公表しています。公表される情報には、市町村別の10a当たりの収量も含まれるので、自分のところの収量と比較することができます。ただし、集計されている収量は「水稲」でまとめられているため、品種別の収量はわかりません。データはe-Stat(政府統計の総合窓口)から閲覧できます。
埼玉県の水稲栽培は「コシヒカリ」がメインですが、近年は地域ブランド米である「彩のきずな」の比率が高まっています。2017年には県東産の「彩のきずな」が特Aランクを獲得したので、今後はコシヒカリを抜いていくことが予想されます。
その「彩のきずな」は多収な品種で、一般的にコシヒカリの20%増と言われています。前述のように農林水産省の情報では様々な品種の合計となっている数値なので、品種別の収量内訳はわかりません。関係機関に問い合わせればわかるかもしれませんが、今回は公表されている情報を使って品種別の内訳を推定し、コシヒカリの平均収量を求めてみました。
地域で栽培されている品種の割合を示す情報は、JAいるま野が公表しているカントリーエレベータ(CE)直接買入れ実績を使いました。情報元:JAいるま野広報誌
JAいるま野は埼玉県南西部の10市3町が管轄になります。管内の農業産出額は、ほうれんそうや大根などの野菜類が56.1%とメインで、米は11.4%となっています。下図は農林水産省が公表した2017年の市町村別10a当たりの収量を可視化したものになります。この図から埼玉県の10a当たりの収量は県東部で高く、県西部で低い、東高西低の分布傾向になります。また、赤枠で示すJAいるま野の管内の西部は秩父山系に位置し、中部・南部は洪積台地となっているため、水稲栽培は東部が中心となります。試験サイトがある坂戸市は、川越市に次いで水稲収量が多い地域になります(坂戸市は埼玉県全体で見ると16位)。
埼玉県の10a当たりの収量(2017年)
JAいるま野が公表しているCEデータは管区全体(10市3町)となっているため、農林水産省の市町村別収量情報を再集計しました。
品種別直接買入れ実績
コシヒカリがCEの直接買入れの半数を占めていますが、年々減少しています。一方、彩のきずなの栽培は増加傾向です。彩のきずなは、JAいるま野の独自ブランド戦略により、生産拡大と集荷拡大となる数量目標および品質目標を策定し、生産者と一体となった産地づくりを進めていることが影響しています。来年か再来年にはシェアが逆転すると思われます。
次に、品種による収量の違いを求めます。コシヒカリの収量を1としたとき、他の品種(彩のきずな・彩のかがやき・彩のみのりなど)の収量の比率を文献などから求めました。
その結果、2014年の管区の水稲の平均収量が489kgとなっていますが、内訳はコシヒカリ468kg、彩のきずな548kg、彩のかがやき492kg となりました。この年の試験サイトの10a当たりの収量は388kgなので、管内のコシヒカリ収量より少ない結果となります。2015年は、管内のコシヒカリ収量が451kg、試験サイトは431kgだったので、2014年よりは平均的な収量に近づきました。2016年からは推定値を上回る結果となっています。
JAいるま野における10a当たりの収量と品種別推定収量
年 | 管内収量 | コシヒカリ | 彩のきずな | 彩のかがやき | 彩のみのり | キヌヒカリ |
2014 | 489 | 468 | 548 | 492 | 520 | 465 |
2015 | 480 | 451 | 528 | 474 | 501 | ― |
2016 | 492 | 461 | 540 | 484 | 512 | ― |
2017 | 488 | 457 | 535 | 480 | ― | ― |
単位:kg |
試験サイトのコシヒカリ収量と管区内のコシヒカリの推定収量の比較
ちなみに、JAいるま野の栽培目標は以下の通りです。
10aあたりの目標収量
・ コシヒカリ ・・・ 480kg(8俵)
・ 彩のきずな ・・・ 600kg(10俵)
・ 彩のかがやき ・・・ 540kg(9俵)
水稲としてまとめられた平均収量の数値も、別資料を組み合わせることで品種別の収量を推定することできました。求めた数値は、自分の栽培技術がどのあたりに位置しているのかを把握することに使えそうです。
平成最後の収穫
2018年の栽培期における天候は、一言で言うと「猛暑が続いた年」でした。8月末から9月上旬になると、台風20号(Cimaron)の接近・ゲリラ豪雨によって、この地域は瞬間的に強風・大雨が襲いました。その影響で、圃場内の一部のイネが倒伏程度3(出穂期2週間前の倒伏リスク診断でリスクがあった箇所)になりましたが、この程度であればコンバインによる作業には全く問題はありません。
下図は、2014~2018年の移植日から収穫日までの積算日照時間になります。図からわかるように今年の天候は例年と比べて日照時間が大きく外れています。本当に暑かったです。
(アメダス:鳩山地点を用いて作成)
2014~2018年の移植日から収穫日まで積算日照時間
収穫時における2018年の積算日照時間は例年の約1.3倍となりました。ちなみに、2017年も出穂期までは2018年と同様な空梅雨・猛暑でしたが、8月に入ると途端に冷夏となり日照不足となっています。
さて、4年間の水稲モニタリングで得たNDVIによる収量予測の結果では、今年の収量予測は2017年(471kg/10a)と比べると減収になりました。収量予測は出穂期のNDVIと前年までに得た地上サンプルとの相関式で求めます。4年間分のパラメータがあるのですが、今年はどのパラメータを用いても減収予測でした。その理由は、2018年の出穂期のNDVIが前年比85%と低かったためです。
NDVIのみ
収量予測:462kg/10a
共同研究者でもある濱ほか(2018)の論文では、NDVIと日射量(コシヒカリの場合は出穂期から20日間)を用いて収量を予測するモデルを示しています。そのモデルによる収量予測は増収となります。
濱モデル
収量予測:488kg/10a
今年の収穫結果は・・・ 498kg/10a で増収となりました。農家としては嬉しい結果ですが、研究者の立場からだと外れてしまった・・・という感じです。また、今年の収量は世代交代してから初の反収あたり8俵を超えることができました。この地域のコシヒカリの目標は8俵(JAいるま野広報誌2018年3月号 pp.5)なので、満足な結果です。
ドローン導入からのコシヒカリ収量(10a当たりの精玄米重量)およびタンパク質含有率の結果
ドローン導入から5年目で30%の増収になりました。籾摺り → 袋詰め → 冷蔵管理までの一連の作業は終わりましたので、まもなく2018年度産「どろーん米」をネットショッピングで販売開始いたします。
意外な結果!?
収穫の時期になると集落のあちらこちらから「ピーピーピー」と音が響いてきます。音の正体はコンバインの動作音なので、この音を聞くと稲刈りに向けて気持ちがソワソワしてしまいます。
先日、2017年産「どろーん米」の収穫が何とか終了しました。台風18号(TALIM)が来る前に刈り取れたので、一安心です。
こうべを垂れる「どろーん米」
しかし、今年は使用しているコンバインの調子がすこぶる悪く、JAさんに何回も修理を依頼したりと予定通りにできませんでした。修理をお願いしたら、すぐに対応してくれるJAさんには感謝です。ありがとうございます。
刈取りは、「コンバイン → 乾燥機 → 籾摺り → 袋詰め」 が一連の流れとなっているので、この工程でどれかひとつの農機具が故障してしまうと、作業全体がストップしてしまいます。故障が長引いてしまうと、稲刈りの適期を逃してしまう可能性があります。現代の農業は如何に機械に依存しているか身をもって実感しました。
さて、2017年の収量ですが、事前予測では8月の日照不足のため、3反の試験サイト圃場の収量は
試験サイト全体の精玄米収量 : 1440.0 kg (465kg / 10a)
※未熟米 :110.2 kg
日照不足の影響はそんなに大きくなかったのか、2016年の精玄米収量 : 1437.5kg とほぼ同量の結果となりました。事前予測で求めた日照不足の影響を考慮に入れていない推定値 1474 kg(粗玄米)の方が良い結果を示しています。
(2017年度の精玄米収量+未熟米) / 2016年度の収量予測式(粗玄米) で求めると誤差が5.2%となりました。
日照時間が多く、気温が高い状態が続いた2016年のパラメータが冷夏の場合にも使えるとは思っていなかったので、ますます水稲モニタリングの難しさを感じます。
未熟米に分類された玄米
※2017年は日照不足の影響によって未熟米が例年より多くなりました。そこで、未熟米と分類された玄米を再度ふるいにかけたところ、110.2kgのうち14.1kgが精玄米として再分類されたので、その分は「2ndチャンス米」として、自宅で消費します。
収量計算確定(2016年)
先日掲載した地上サンプリングからメッシュごとに単位面積あたりの玄米重量(g/㎡)を求めました。
単位面積当たりの玄米重量は、メッシュ内の株数・1株当たり平均茎数・1穂あたりの玄米重量から計算できます。
求めた玄米重量とNDVI(出穂期)の回帰分析から線形回帰式を求めます。
以下の式は、収量予測に用いた推定式になります。
【2014年】
Y = 968.42 × NDVI – 33.50
【2016年】
Y = 1822.2 × NDVI – 341.43
Y:単位面積あたりの玄米重量(g/㎡)
2016年推定式で計算した収量分布が下図になります。
収量マップ(2016年)
8月中旬に予測したマップと比較すると,分布傾向は似ていますが,多くのメッシュで数量が異なりました。
収穫1カ月前に予測した収量マップ(2016年)
※収穫1カ月前に予測した収量マップ(2016年)は、2015年の推定式を用いて作成しています。
収量検証(2016年)
計算で求めた収量:1461 kg
実際の収量:1437.5 kg
この結果から、2016年の推定式は1.6%の誤差で推定玄米収量を求めることができました。
2014年は5.3%の誤差がありましたが、年々精度は向上しています。
修行:地上サンプル
ドローン水稲モニタリングは、上空からのモニタリングの精度を向上させるために、実際に地上でイネをサンプリングした資料が必要となります。
サンプリング資料とドローンモニタリングを紐付けることによって、収量やタンパク質含有率などを面的に推定することができます。
地上サンプリングは、ドローン導入1年目から実施していますが、この作業がかなり大変で苦労します。精度向上のための修行です。
サンプリングの手順
1) 刈り取り
5mメッシュで管理している圃場から、収穫直前に数箇所(毎年一緒)を対象にメッシュ内の中心から10株程度刈り取ります。
棒を頼りにサンプリングするメッシュの特定
メッシュの特定は杭近くに立てた棒を頼りに刈り取っていきます。
天日干し
刈り取ったイネは、天日干しで水分を落とします。
※コンバインによる刈り取り・脱穀は精確な量や該当メッシュ以外のイネも含まれる可能性があるので、全て手作業で行います。
1年目は手探りながらサンプリングを行ったので、全てのサンプリング地点の刈り取りを終えるまで半日かかってしまいました。
しかし、2年目以降は無駄な作業をしないように気を付けた結果、2~3時間程度で終えるようになりました。
2) 脱穀
脱穀するためにいろいろと試しましたが、私は透明の蓋付きプラスチック(Futabaの受信機のケース)を愛用しています。
プラスチックケースを利用した脱穀
脱穀作業現場
3) 籾摺り
サンプリングした籾は少量のため、出荷用に使う籾摺り機を使用することができません。以前、購入した水分測定器(高森コーキ)に付属していたローラーもみすり器を使用します。
本来なら手で回すのですが、写真のように回転軸にスクリューネジを取り付けて、電気ドリルを使って籾摺りをしています。手より確実に籾殻と玄米を分別できます。
電動籾摺り機
4) 玄米選別
実は、この工程が一番大変です。籾摺り後は、玄米と籾殻が混ざっている状態です。これを玄米と籾殻に選別しなければなりません。先人たちは風力を使った唐箕で選別を行っていましたが、我が家に唐箕がありせん(昔はありましたが...)。
低コストが基本コンセプトなので、家にある扇風機と段ボールの簡易的唐箕を作って、選別していきます。
※製作時間30分、選別精度あまり良くない。
簡易型唐箕
一応、選別はできるのですが、完全ではありません。ここからが修行というか...苦行になります...。
簡易的に選別した玄米には籾殻も混ざっているので、ピンセットで取り除いていきます。1サンプルの作業時間は約2時間です。今年は18サンプルあります...。
玄米・籾殻選別
サンプル資料の準備がようやく終了
全サンプルを分析すると費用が高くなってしまうので、このうち数サンプル分を女子栄養大学にタンパク質分析を依頼します。
籾摺り&袋詰め
コンバインで刈り取った籾は乾燥機で水分15%まで落としていきます。条件によって異なりますが、乾燥時間は大体6~8時間程度です。
*刈り取った籾は約26%の水分がありました。
乾燥させた籾は、籾摺り機に移します。籾摺り機では、籾殻と玄米に分別します。また、小粒や未成熟の玄米は出荷用には適さないので、この段階ではじかれます。
左側が乾燥機、右側が籾摺り機
出荷用の袋は1袋30kgになります。ちなみに、1俵は2袋分の60kgになります。
今年の成果(手前側はどろーん米、奥側はJA出荷用)
今年の収量は、約93袋(2817.5kg)でした。くず米も合わせた総量は2977.5kgとなります。
予想した収量の答え合わせは、後日紹介します。
どろーん米(コシヒカリ) 新米
一通りの作業が終わった日の夕食は、収穫したばかりの「どろーん米」を美味しくいただきました。