DSM
【手法】3Dモデル作成(SfM-MVS処理)
【手法】ドローン飛行設定で紹介したように、地図を作成する場合の撮影にはルールがあります。隣接する写真の約60%以上が重複するように撮影します。重複部分があることで、撮影した地表面を立体的に見ることができるようになります。
数年前から個人でも3Dモデルを作成できるソフトがいくつか登場しました。例えば、PhotoScan(Agisoft)やPix4Dmapper(Pix4D)などの有料ソフトの他に、無料のVisualSFMがあります。私は操作方法や価格などを検討した結果、PhotoScanを使用しています。
※PhotoScanを購入する際にはProfessional Edition を選択してください。Standard Edition ではオルソ画像・DSMを出力できませんので注意してください。
フローチャート(3Dモデル作成)
1) 撮影画像
撮影カメラにはRicho GRおよびCanon S110(近赤外改造カメラ)を使います(2015年以降)。30a程度の圃場であれば、上空50mを約6分の飛行時間で300枚程度撮影できます(Richo GRでインターバル1秒設定)。この撮影した画像のうち、ブレの小さい画像のみを使用します。PhotoScanでは、画像の品質を 「0~1」で 数値することができます。高品質の画像は1に近い数値を示します。反対に、ブレの大きい低品質の画像は0に近くなります。
左:高画質(0.92) 右:低画質(0.65)
(2016年7月21日撮影 Richo GR)
基準点(GCP:Ground Control Point)の位置座標設定
3Dモデルに位置情報を付与するために、撮影した画像の基準点に位置座標を設定します。下図は上空50mから撮影した基準点+対空標識です。
PhotoScanでの基準点設定
2015年以降はTS測量の計測値を使用しているので、高精度な3Dモデルが作成できます(誤差は数cm)。
2)SfM-MVS 処理
撮影した画像をPhotoScanで処理していくのですが、作業工程のほとんどが自動化されているので、簡単に3Dモデルを作成することができます。数時間程度で処理が完了するので、観測した当日にはモニタリング結果を手にすることができます。
SfM-MVS 処理の結果
3)3Dモデル(オルソ画像・DSM)
位置座標を付与した3Dモデルからオルソ画像・DSMを出力することができます。モニタリングデータの解析では、生育状況の判断にオルソ画像、倒伏リスク診断にDSMを使用します。
可視光域、近赤外域で撮影後、作成したオルソ画像・DSMはGIS(Geographic Information System:地理情報システム)で解析し、管理していきます。GISは地図を表示するだけではなく、解析結果などを地図として可視化することができ、生育状況の判断に使用します。
フリーソフトの「QGIS」で水稲モニタリングの解析を十分に行うことができます。
QGISによるモニタリング結果の可視化
倒伏進行中・・・
前回の記事から「どろーん米(コシヒカリ)」の倒伏が進んでしまいました。
倒伏リスク診断でリスクありの箇所が中心です。診断が当たったのはよかったのですが...ちょっと複雑な心境です。
週末(10・11日)の稲刈りまであと僅かの時間ですが、台風13号(MALOU)の接近が心配です。
9月3日に実施したモニタリング結果を紹介します。
2016年9月3日撮影 オルソ画像(紫線は倒伏エリア(軽度~重度を含む))
倒伏リスク診断マップに倒伏エリア(160903時点)の重ね合わせ
倒伏リスクが高い赤色を中心に、重度の倒伏傾向が見られます。
上空50mからの撮影画像:ハート型倒伏
(クリックすると大きい画像が開きます)
倒伏リスク診断
コシヒカリは稲穂が垂れやすく、倒伏しやすい品種になります。そもそも、倒伏は稲穂が地表面に着くほど倒れる状態を指します。倒伏して、稲穂が地表面の水に着いてしまうと,収量の低下や機械による収穫困難、食味の低下などの問題が生じ,生産者にとっていいことはありません。
そのため、倒伏のリスクがある箇所については,事前に倒伏軽減剤の散布や倒伏前に刈取りを行うなどの対応が必要となってきます。
コシヒカリは、草丈が幼穂形成期で70cmを越える場合,または出穂13~14日前で84cm以上であると,倒伏のリスクが高まるとされています(水稲栽培管理情報:JA金沢市版)。ただし、この数値については、埼玉県でも用いることができるかは検討の余地はあります。
下の倒伏リスク診断マップは、「出穂14日前のDSM-代掻き直後のDSM」から計算した図です。今年は、水稲株位置を求めたので株ごとに倒伏リスク診断を行いました(全部で約5.1万株)。赤色は倒伏リスクの高い株で、青色はリスクが低い株になります。
倒伏リスク診断マップ
冠水後に撮影したオルソ画像
(稲の色が若干変化しているところが倒伏している箇所)
スライドバーを動すと、倒伏リスクが高い場所と実際に倒伏してしまった場所の対応が確認できます。
今年の稲刈りは9月10~11日を予定しております。まだ、1週間ちょっとの時間があります。それまでの間に、さらに倒伏が進まないことを祈るばかりです。
雑草抽出
ドローン水稲モニタリングは試験サイト(約3反)の他にも行っています。
すぐ隣の圃場で大きさは約1反程度です。この圃場は試験サイトと全く同じ手法(肥料等も同じ)で栽培しています。
最近、小さい方の圃場では雑草が目立ち始めてきました。
小さい圃場も6月上旬に除草剤を散布しましたが、散布後に強風によって風下側に流されてしまいました。そのため、若干土壌が高いところでは雑草が発生してしまいました。
ちなみに、試験サイトは翌日(風が弱い)に散布したため、目立った雑草は発生していません。
下の写真は圃場内部に入って取り除いた雑草です。現在までにバケツ4杯分を除去しましたが、全く追いついていません。
取り除いた雑草バケツ1杯分(作業着は泥だらけ)
今回はモニタリングによって雑草がどのように撮影されているかを紹介します。
下の画像は可視画像・近赤外画像・DSM(地表面の高さ:草高)になります。可視画像・近赤外画像において、雑草が発生している部分は周辺の水稲と比べると明らかに色が異なります。また、DSMで見ても水稲の草高より雑草は高くなっていることがわかります。
図 雑草抽出位置(左:可視画像、中央:近赤外画像、右:DSM)
クリックすると大きい画像サイズで確認できます。
下の写真は雑草を抽出した場所を地上から撮影したものです。
タイヌビエ(雑草を見やすくするために画像を加工)
クサネム(雑草を見やすくするために画像を加工)
以前、紹介した水稲株位置を用いれば水稲と雑草の区別ができるので、雑草の位置および生育状況の把握は可能だと思います。しかし、今回のように雑草が生育してしまうと、取り除くのはかなりの労力が必要となります。
代かき直後のDSM計測
本来ならば代かきを終えたら、すぐに水を入れて湛水状態にします。
しかし、今回は代かきを行うことによって、どのぐらい圃場内の凸凹を均平にすることができたかを計測するために、あえて水を入れませんでした。
近所の農家さんからは不思議がられましたが...。
ドローンや地上レーザーを用いて、代かき直後のDSM計測は困難でした。なぜなら、圃場内に水を張ってしまうと、水の反射によって正確な高さが求めることができません。しかし、代かきでどのぐらい土壌を移動させ、均平化できたかを数値化してみたいと思い、代かきを実施してから水がなくなった3日目にドローンによるDSM計測を行いました。
圃場の西側にある取水口側で圃場全体の平均高より約2cm高く、東側の排水口では約2cm低くなっていることがわかりました。水管理を考えると問題ない範囲と考えられます。
代かきを実施してから3日後に空撮し、作成したオルソ画像
地上から撮影した代かき3日後の様子
例年は代かき後に雑草防除初期剤である農将軍フロアブル(3成分)を散布していましたが、今年から散布をやめました。
少しずつですが、農薬を減らす方針で「どろーん米」の栽培を行っていきたいと思います。
収穫・品質を左右する代かき
今までのモニタリング結果から、代かきはその年の収穫量・品質を決める重要な作業になります。
代かき前にいろいろと圃場の均平化を試しましたが、圃場内の土を最も多く移動できるのは代かきになります。
今回はドローンで計測したDSMをもとに、まず「土寄せ」を行いました。
圃場の平均高より高い場所を中心に低い方へ...
ある程度の土寄せが終われば、いよいよ代かきです.
約3反の圃場にかかった時間は5時間(土寄せ+代かき)です。これでも自分の思い通りの結果にはなりませんでした。
代かき後の圃場にうつる夕日です。
次週は田植えになります。5月はいろいろと作業が続きます。
肥料混ぜ込み&ドローン計測
前日に粒状の肥料を散布したので、トラクターを使って土に混ぜ込みを行いました。今回は作業深度は浅めの設定です。
トラクタの駆動時間は約2時間(約3反)でした。
その後、ドローンを用いてDSM計測を実施しました。圃場をマップ化することで、均平化作業の状況を確認できます。
ドローンの撮影時間は約5分、DSM・オルソ画像作成時間は約1時間程度です。
均平化(人力)
トラクタで圃場の均平化を目指しても、なかなか思い通りにいきません。
今回は人力で圃場の均平化作業を行いました。移動できる土砂量はわずかですが、圃場の高さ(DSM)マップからピンポイントで高低差を均すことができます。
運動不足の体には、少々堪える作業でした...。
観測方法に情報追加
観測方法の項目に、可視画像・近赤外画像・NDVI(植生指標)・DSM(地表面の高さ)の取得例をそれぞれ掲載しました。
解析には,これらの画像に5m×5mのメッシュを覆い、メッシュ単位で生育状況をモニタリングしていきます。
近赤外画像取得例 | NDVI取得例 | DSM取得例 |
モニタリングする際に便利なのは、GIS(地理情報システム)ソフトになります。一昔前は数百万円する業務ソフトもオープンソースの波によって、無償で使用できるソフト「QGIS」が登場しました。
登場当時はいろいろと不便なところもありましたが、最新版では問題なく使えます。
QGISは http://qgis.org/ja/site/ から日本語版をダウンロードできます。Windows以外にも対応しています。
水稲モニタリングの解析には十分な機能が含まれています。