オルソ画像
アイガモ迷路?
モニタリング中にアイガモの来客がありました。田植え頃からどこともなく現われ、いつの間にか立ち去ってしまいます。
アイガモはイネ科の植物を食べないという習性があるので、イネ以外の雑草を食べてくれます。また、移動する際には、くちばしや足で泥水を撹拌し、雑草の繁殖も抑えてくれます。
ありがたい存在です。
アイガモの来客
対地高度50mからのドローンの風切音には驚かず、モニタリング中はずっと圃場内で食事をしていました。
オルソ画像(2017年6月18日撮影 Richo GR)
圃場内の線はアイガモが通った後になります。まるで迷路のような感じです。下はアイガモを撮影できた部分を拡大した画像になります。
上空50mからのアイガモの様子
アイガモの特性を利用して、減農薬もしくは無農薬で水稲栽培を行うアイガモ農法があります。しかし、アイガモ農法は飼育の手間、圃場を隈無く回ってくれない、カラス・タヌキといった動物に襲われるなど、決して容易な農法ではありません。近年では、こういった課題からアイガモロボットの開発がされています。市販されるようになったら、ぜひ試してみたいですね。
ポールカメラによる凹凸計測
日本の農地上空には、送電線が多く存在しています。残念ながら、私の圃場上空にも送電線があります。
送電線の下にある圃場(紫線)
背景画像:地理院地図
そのため、送電線がある圃場では、安全面を考慮するとドローンによる水稲モニタリングを実施できません。上空からモニタリングできるツールは、ドローン以外にも高所作業車による撮影などがあります(サタケ:圃場生育診断システム「アグリビュー」)。ただ、零細農家にとってモニタリングのたびに高所作業車をレンタルすることはできません。
そこで、今回はポールカメラ方式を採用しました。
ポールカメラは中田ほか(2009)を参考にして、測量スタッフ(約7m)とRicho GR(インターバル間隔を5秒)を用意し、撮影を行います。
ポールカメラ撮影のイメージ(場所は圃場ではありませんが…)
7mのスタッフに約250gのカメラを取り付けると、スタッフはしなってしまい、上手く扱うには力が必要になります。また、風が吹くと測量スタッフがもっていかれてしまい、同じ場所にとどめるだけでも大変です…。
ポールカメラで撮影するためにはノウハウも必要ですが、改正航空法で飛行制限があるDID地区付近でもモニタリングできるので、ポールカメラは有効なツールだと思います。また、ポールカメラは墜落の心配もありません。
青い四角はポールカメラの撮影推定位置
ポールカメラによる3Dモデル(送電線下の圃場)
中田 高,渡辺満久,隈元 崇,後藤秀昭,西谷義数,桜井元康,川口 雄作:地形調査のための簡易高位置撮影装置 (Hi-View)の開発,活断層研究,31,pp.39-43,2009.
【手法】3Dモデル作成(SfM-MVS処理)
【手法】ドローン飛行設定で紹介したように、地図を作成する場合の撮影にはルールがあります。隣接する写真の約60%以上が重複するように撮影します。重複部分があることで、撮影した地表面を立体的に見ることができるようになります。
数年前から個人でも3Dモデルを作成できるソフトがいくつか登場しました。例えば、PhotoScan(Agisoft)やPix4Dmapper(Pix4D)などの有料ソフトの他に、無料のVisualSFMがあります。私は操作方法や価格などを検討した結果、PhotoScanを使用しています。
※PhotoScanを購入する際にはProfessional Edition を選択してください。Standard Edition ではオルソ画像・DSMを出力できませんので注意してください。
フローチャート(3Dモデル作成)
1) 撮影画像
撮影カメラにはRicho GRおよびCanon S110(近赤外改造カメラ)を使います(2015年以降)。30a程度の圃場であれば、上空50mを約6分の飛行時間で300枚程度撮影できます(Richo GRでインターバル1秒設定)。この撮影した画像のうち、ブレの小さい画像のみを使用します。PhotoScanでは、画像の品質を 「0~1」で 数値することができます。高品質の画像は1に近い数値を示します。反対に、ブレの大きい低品質の画像は0に近くなります。
左:高画質(0.92) 右:低画質(0.65)
(2016年7月21日撮影 Richo GR)
基準点(GCP:Ground Control Point)の位置座標設定
3Dモデルに位置情報を付与するために、撮影した画像の基準点に位置座標を設定します。下図は上空50mから撮影した基準点+対空標識です。
PhotoScanでの基準点設定
2015年以降はTS測量の計測値を使用しているので、高精度な3Dモデルが作成できます(誤差は数cm)。
2)SfM-MVS 処理
撮影した画像をPhotoScanで処理していくのですが、作業工程のほとんどが自動化されているので、簡単に3Dモデルを作成することができます。数時間程度で処理が完了するので、観測した当日にはモニタリング結果を手にすることができます。
SfM-MVS 処理の結果
3)3Dモデル(オルソ画像・DSM)
位置座標を付与した3Dモデルからオルソ画像・DSMを出力することができます。モニタリングデータの解析では、生育状況の判断にオルソ画像、倒伏リスク診断にDSMを使用します。
可視光域、近赤外域で撮影後、作成したオルソ画像・DSMはGIS(Geographic Information System:地理情報システム)で解析し、管理していきます。GISは地図を表示するだけではなく、解析結果などを地図として可視化することができ、生育状況の判断に使用します。
フリーソフトの「QGIS」で水稲モニタリングの解析を十分に行うことができます。
QGISによるモニタリング結果の可視化
【手法】ドローン飛行設定
ドローンによる空撮手順の一例を紹介します。
モニタリングや地図作成など定期的かつ効率的に撮影するには、ドローンの自律飛行機能は重要になります。
私がドローンに触れたときは、上記の目的を満たす機体は僅かでした。
※2012年発売のPhantom1(DJI社)は電波法によって制限されていました。現在のPhantomシリーズはPCまたはタブレットを通して、自律飛行は可能となっています。
そこで、当時でも自律飛行が可能なオープンソース系のフライトコントローラを搭載したZion EX700を購入しました。
ここでは、飛行コースや機体のセッティングを行うフリーソフトの「Mission Planner」を紹介します。
撮影カメラ
【2014年】
オルソ画像・DSM
・可視光域:Nikon AW1
Nikon AW1(シャッター部分には小型サーボを設置)
NDVI
・近赤外域:GoPro3×2台
GoPro3を用いた簡易型近赤外カメラ
左側:近赤外域(光吸収・赤外線透過フィルターをレンズ前に設置)、右側:可視光域
【2015年以降】
2014年に判明した問題点を改善するために、撮影カメラを以下のものに変更しました。
オルソ画像・DSM
・可視光域:Richo GR
Richo GR
RICHO GRは、これまでに試したカメラの中で空撮に適したカメラです。重量が245gと軽量でありながら、撮像素子(23.7mm×15.7mm)が大きいので、画質の高い画像を撮影できます。また、レンズの歪みも小さいので、3Dモデル作成にも適しています。私がお勧めするカメラの一つです。
NDVI
・近赤外域:Canon S110(近赤外域を撮影できるように改造)
改造Canon S110(近赤外域撮影用)
1) 撮影計画
Mission Plannerでは、撮影カメラの仕様や飛行高度などを入力することで、最適な飛行経路を設定できます。 下図は週1間隔でモニタリングを行っている飛行コースになります。地面効果の影響によって機体が不安定になりやすい離着陸時は、マニュアルで操縦を行い、ある程度上空に到達したら、自律飛行に切替えます。
飛行コース(黄線:設定コース 緑点:ウェイポイント)
※対地高度:50m サイドラップ率:70%
2) 基準点設置
撮影画像から作成する3Dモデルに位置情報を付与するために、基準点(GCP:Ground Control Point)を設置します。高精度の3Dモデルを作成したい場合は,トータルステーション(TS)や人工衛星を用いた測量(RTK-GNSS測量)が望ましいです。多少精度が落ちますが、地理院地図の緯度経度座標及び標高値を使用することもできます。
2014年は地理院地図の座標を用いていましたが、高精度な3Dモデルが欲しくなったので、トータルステーションで圃場四隅を計測しました。2015年以降はTS測量で取得した値を使用しています。
トータルステーション測量(2015年)
基準点は対地高度50mからでもが判読できるように設置します。材料はホームセンターで揃えることができます(約1,200円)。
基準点用の杭:テント用のプラスチック製ペグを使用(ホームセンターで購入:1本約100円×4本)
対空標識:直径30cmのプラスチック製の漬物落し蓋を使用(ホームセンターで購入:1枚約200円×4枚) ※判読しやすいように、油性マジックで塗装。
基準点+対空標識
3)飛行・撮影
ドローン撮影の基本は「下手な鉄砲も数撃てば当たる」です。無駄になっても構わないので、枚数を多く撮影していきます。機体の揺れなどによってピンボケが撮影されこともあるので、Richo GRでは最短インターバルの1秒で撮影します。Canon S110も同様に最短のインターバルで撮影します。ただし、Canon S110は標準機能にはインターバル撮影がないので、ロシアン・ファーム(ロシアで開発されたソフトを使った裏技)で機能を追加します。
3Dモデル作成には、ピンボケの撮影画像などは取り除きます。
上空から撮影中
次回、3Dモデル作成について説明します。
試験サイト周辺の3Dモデル
雑草抽出
ドローン水稲モニタリングは試験サイト(約3反)の他にも行っています。
すぐ隣の圃場で大きさは約1反程度です。この圃場は試験サイトと全く同じ手法(肥料等も同じ)で栽培しています。
最近、小さい方の圃場では雑草が目立ち始めてきました。
小さい圃場も6月上旬に除草剤を散布しましたが、散布後に強風によって風下側に流されてしまいました。そのため、若干土壌が高いところでは雑草が発生してしまいました。
ちなみに、試験サイトは翌日(風が弱い)に散布したため、目立った雑草は発生していません。
下の写真は圃場内部に入って取り除いた雑草です。現在までにバケツ4杯分を除去しましたが、全く追いついていません。
取り除いた雑草バケツ1杯分(作業着は泥だらけ)
今回はモニタリングによって雑草がどのように撮影されているかを紹介します。
下の画像は可視画像・近赤外画像・DSM(地表面の高さ:草高)になります。可視画像・近赤外画像において、雑草が発生している部分は周辺の水稲と比べると明らかに色が異なります。また、DSMで見ても水稲の草高より雑草は高くなっていることがわかります。
図 雑草抽出位置(左:可視画像、中央:近赤外画像、右:DSM)
クリックすると大きい画像サイズで確認できます。
下の写真は雑草を抽出した場所を地上から撮影したものです。
タイヌビエ(雑草を見やすくするために画像を加工)
クサネム(雑草を見やすくするために画像を加工)
以前、紹介した水稲株位置を用いれば水稲と雑草の区別ができるので、雑草の位置および生育状況の把握は可能だと思います。しかし、今回のように雑草が生育してしまうと、取り除くのはかなりの労力が必要となります。