過去
農閑期の圃場計測
2018年度の栽培に向けて始動です。
昨年の秋に「すき込み」をしてから、久しぶりのトラクター運転になります。
田起こし作業の前に、ドローンによる圃場計測を行いました。ドローンは農閑期にメンテナンスを施し、いつでも飛行できるように準備をしていたのですが、GCP用のマーカーが色あせているのに気づいてしまいました・・・。
再塗装前後のGCP用マーカー
上図の右側はドローン水稲モニタリングを始めてから使用しているマーカーです。長年使用していると色があせたり、剥がれたりしてしまいます。この程度であれば、上空から撮影しても特に問題ないのですが、気分一新ということで再塗装し直しました(下図参考)。
上空50mから撮影したGCP用マーカー(左:2018年3月31日撮影 右:2017年9月9日撮影)
昨年のブログを見直してみると2月中旬に田起こしをしていたので、今年は少し遅い始動となります。まずは、田起こしの前に圃場の状態をドローンを用いて計測しました。
圃場凹凸マップ(田起こし前:2018年3月31日撮影)
最近は、圃場の均平化に力を注いでいるので、そこまで気になる凹凸はありませんでした(圃場の四隅やトラクターの出入り口を除いて)。この作成したマップは、運転席に貼って凹凸の位置を意識しながら田起こし&均平化を行いました。
圃場凹凸マップ(田起こし後:2018年4月1日撮影)
上図は作業後の凹凸マップです。マップを見る限り、そこそこ良い感じであると思います。これなら今年の代かきはそんなに作業時間がかからないかもしれません。ベテラン農家さんの「この圃場の均平化は3~4年かかるよ」のアドバイスの通りで、この状態になるまで時間がかかりました。
ドローン水稲モニタリングも今年で5年目の節目を迎えます。これからも「どろーん米」の作業記録を兼ねた情報を発信していきたいと思います。
相棒(ドローン、トラクター)
雑草種子焼却とすき込み
2017年はタイヌビエなどを中心とする雑草に悩まされました。
ドローン水稲モニタリングを行っていない圃場において、雑草が広い範囲で生えてしまいました。農薬による除草も選択肢にあったのですが、なるべく農薬を使わない方針なので、家族・親戚を動員しての人海戦術で雑草取りを行いました。それでも、雑草の生長はすごく、除草が間に合わないぐらいでした…。そのため、大量の雑草種子が地面に落ちてしまいました。
近所のベテラン農家さんに聞いたところ、地面に落ちた種子は10年ぐらい経過しても、条件が整えば発芽するという情報を得ました。ネットで検索すると、農研機構の研究成果には、タイヌビエの種子は埋土しても数年間は高い生存率を維持するとありました。10年過ぎても死滅しないとのことです(農研機構(2004):耕土下層における主要水田一年生雑草種子の生存期間)。
大量に落下した雑草種子を、何もしない状態で「すき込み」を行うのは、次年度以降の栽培に影響があると思われるので、草焼きバーナーで種子焼却を試みました。そのために、新富士バーナーの「草焼バーナーPro KB-300」を購入しました(約1.8万円)。このバーナーの燃料は灯油で、1回の給油で1時間ぐらい燃焼できます。予想以上の火力で地面に落ちた雑草種子は、パチパチ音を出して焼却できました。
草焼きバーナーによる雑草種子焼却
なお、ドローンを用いてモニタリングを行っている試験サイトにも多少雑草が生えましたが、こちらはなんとか人力で除草することができる量でした(それでも2日間程度を雑草取りに費やしました)。同じように栽培していても、これだけ状況が異なるとは・・・要因は水位の管理の違いかもしれません。
雑草の除草が終わった圃場から、稲藁の「すき込み」を行いました(先日の氾濫によって多くの稲藁は流れてしまいましたが・・・)。
トラクターによるすき込み
この時期は、航空自衛隊の「入間航空祭」があります。ちょうど自宅周辺の上空が旋回する場所にあたるので、低空飛行するC-1輸送機やU-4支援機などをトラクターに乗りながら見学しました。
編隊を組むC-1輸送機
台風21号による内水氾濫
先日、日本縦断した台風21号(LAN)は埼玉県坂戸市にも爪痕を残していきました。下のパノラマ写真のように葛川の内水氾濫によって自宅周辺は冠水してしまいました。2015年から3年連続の冠水になります。2015年は鬼怒川に大きな被害をもたらした平成27年関東・東北豪雨、2016年は台風9号によって氾濫しています。全く嬉しくありませんが、毎年恒例になりつつあります。ただ、今回は既に収穫を終えた後だったため、農作物についての心配はありませんでした。
氾濫のピーク(2017年10月23日6時30分 自宅屋上から撮影)
この場所は、高麗川・越辺川・葛川の三川合流になり、合流地点には高麗川・越辺川からの逆流による浸水被害を防ぐために水門が建設されています。しかし、高麗川・越辺川の水位が上昇すると、水門を閉じるため堤内地を流れる葛川からの水が下流に排水されず、内水氾濫が発生してしまいます。パノラマ写真の奥の方に写っているのは高麗川になります。高麗川もあと少しで氾濫危険水位までの高さに達するところでした。
高麗川・越辺川・葛川の位置(背景地図:地理院地図)
葛川水門(2017年10月23日12時撮影)
しかし、これだけ毎年のように氾濫が発生すると今後の心配は尽きません。約30年前に上流に位置するにっさい花みず木地区で大規模な宅地開発が始まりました。それまでの田畑から住宅地・商業地・工業地などに土地利用が大きく変化しました。
今回の氾濫は日本テレビ系列で全国に放送されました。この周辺の氾濫は同じ市内の人でも知らない人が多いので、いろんな人に知ってもらう機会になったかと思います。
取材中の様子
倒伏の定量化
以前にも紹介したように、コシヒカリは稲穂が垂れやすく、倒伏しやすい品種になります。
今年の「どろーん米」は、8月19日の降雨(約67mm)をきっかけに、出穂2週間前に診断した高リスク箇所から徐々に倒伏が進んでいきました。
今回はモニタリングデータから倒伏の定量化について、少しまとめてみました。
まず、イネが倒伏してしまうと、農機具による収穫が難しくなります。
我が家ではコンバインを所有しているので今まで気にしていませんでしたが、農作業を外部に委託した場合、倒伏した圃場では標準料金とは別に10%~30%程度加算されてしまいます(料金は各自治体によって異なります)。たとえば、島根県邑南町が公開している農作業標準賃金(平成29年度)では、倒伏面積割合で割増料金が以下のように決まっています。
倒伏面積割合 | 0%~30% | 30%~50% | 50%~80% | 80%以上 |
割増 | 規定料金 | 20%増 | 30%増 | 50%増 |
※標準価格:コンバインによる刈取り 10aあたり20,800円
現場では倒伏面積割合をいちいち算出するのは時間がかかるので、担当者の目分量で判断していることがほとんどだと思います。
そこで、刈取り前の空撮データから倒伏面積割合を算出できるか試してみました。
【使用するデータ】
・ドローンによる空撮(可視光:Richo GR)データ(2017年9月8日撮影:刈取り前日)
狭い範囲なら目視で倒伏範囲を特定しても時間はかかりませんが、広範囲に及ぶと目視での範囲特定は手間と時間がかかってしまいます。
リモートセンシングの分野では、古くから画像データを利用した画像分類は得意とするところです。たとえば、JAXAがALOS/ALOS-2の人工衛星から画像分類して作成した高解像度(解像度約10m)の土地被覆図などがあります。
画像分類には「教師なし分類」・「教師付き分類」がありますが、今回はトレーニングデータを必要とせず、画像の特徴量をもとに自動分類を行う「教師なし分類」を選択しました。
ドローンによる空撮画像から作成したオルソ画像を用いて、教師なし分類を行った結果が下図になります。
画像分類結果(2017年9月8日撮影データを使用)
誤分類も多々ありますが、大きく倒伏した範囲の抽出ができているので、倒伏の抽出には教師なし分類も使えることがわかりました。なお、試験サイトの倒伏面積は 517.1㎡ で圃場面積の 15.9% となりました。
画像分類による倒伏範囲の特定は倒伏しているかどうかを抽出する方法で、イネがどの程度の傾きで倒伏しているかはわかりません。
イネの倒伏程度の判断基準は、一般的に倒伏したイネの傾きの大きさを「0(無)」~「5(甚)」の6段階で表すことが多いそうです。
倒伏程度の判断基準
今度は、モニタリング解析で作成するDSMデータを用いて倒伏程度を求めてみます。
使用するデータは、倒伏する直前(出穂期から14日後)と刈取り前日(出穂期から40日後)の2時期のDSMデータです。
【使用するデータ】
・ドローンによる空撮データから作成したDSM
倒伏直前のDSM :2017年8月13日撮影
刈取り前日のDSM:2017年9月8日撮影
倒伏直前のDSMと刈取り前日のDSMの三角関数から角度を求め、倒伏程度に変換した分布図が下図になります。
倒伏前後のDSMから計算した倒伏程度(ラスタデータ)
地点1 倒伏のない状態(ベテラン農家さん)
地点2 倒伏程度の大きい地点(試験サイト)
試験サイトでは倒伏程度の大きい箇所(地点2)が多く見られますが、隣のベテラン農家さんの圃場ではほとんど倒伏(地点1)がありません。
移植日は同じなので、同じ気象条件であるにもかかわらず、結果的に倒伏の差が生じます。これがベテランと新米の違いなのかもしれません...。
2016年から水稲株単位でも解析を行っています。倒伏程度も株単位(2017年:圃場全体で約4.7万株)で計算すると次のようになりました。
水稲株単位の倒伏程度(ポイントデータ)
水稲株単位で求めた倒伏程度別占有率
コンバインによる収穫作業が難しくなるのを「倒伏程度4」と仮定した場合、倒伏割合(倒伏程度4+倒伏程度5)は31.4%(約1.4万株)となりました。
最初で紹介した画像分類による倒伏範囲の抽出より高い結果となります。精度検証として、画像分類によって抽出した倒伏範囲と水稲株単位の倒伏程度で重ね合わせ分析を行った結果、倒伏範囲に含まれる水稲株の約82%が倒伏程度4.5~5となりました。このことから、画像分類による倒伏範囲の抽出は、上空からでも判読しやすい倒伏程度が大きい「4.5~5」を捉えているのではないかと考えられます。
来年こそ、倒伏しないような水稲栽培ができるように頑張ります!!
どろーん米(2017)販売開始
9月26日から平成29年産「どろーん米」の販売を開始します。価格は昨年と同じです。
平成29年コシヒカリ新米100% 「どろーん米」 5kg 精米
平成29年コシヒカリ新米100% 「どろーん米」 10kg(5kg×2袋) 精米
価格は、5kg 2,400円(税込)、10kg 4,500円(税込)となっております。※送料別
詳細は「どろーん米購入」をご覧ください。
どろーん米
意外な結果!?
収穫の時期になると集落のあちらこちらから「ピーピーピー」と音が響いてきます。音の正体はコンバインの動作音なので、この音を聞くと稲刈りに向けて気持ちがソワソワしてしまいます。
先日、2017年産「どろーん米」の収穫が何とか終了しました。台風18号(TALIM)が来る前に刈り取れたので、一安心です。
こうべを垂れる「どろーん米」
しかし、今年は使用しているコンバインの調子がすこぶる悪く、JAさんに何回も修理を依頼したりと予定通りにできませんでした。修理をお願いしたら、すぐに対応してくれるJAさんには感謝です。ありがとうございます。
刈取りは、「コンバイン → 乾燥機 → 籾摺り → 袋詰め」 が一連の流れとなっているので、この工程でどれかひとつの農機具が故障してしまうと、作業全体がストップしてしまいます。故障が長引いてしまうと、稲刈りの適期を逃してしまう可能性があります。現代の農業は如何に機械に依存しているか身をもって実感しました。
さて、2017年の収量ですが、事前予測では8月の日照不足のため、3反の試験サイト圃場の収量は
試験サイト全体の精玄米収量 : 1440.0 kg (465kg / 10a)
※未熟米 :110.2 kg
日照不足の影響はそんなに大きくなかったのか、2016年の精玄米収量 : 1437.5kg とほぼ同量の結果となりました。事前予測で求めた日照不足の影響を考慮に入れていない推定値 1474 kg(粗玄米)の方が良い結果を示しています。
(2017年度の精玄米収量+未熟米) / 2016年度の収量予測式(粗玄米) で求めると誤差が5.2%となりました。
日照時間が多く、気温が高い状態が続いた2016年のパラメータが冷夏の場合にも使えるとは思っていなかったので、ますます水稲モニタリングの難しさを感じます。
未熟米に分類された玄米
※2017年は日照不足の影響によって未熟米が例年より多くなりました。そこで、未熟米と分類された玄米を再度ふるいにかけたところ、110.2kgのうち14.1kgが精玄米として再分類されたので、その分は「2ndチャンス米」として、自宅で消費します。
サンプル採取
稲刈りを行う前日に圃場内の複数箇所からイネをサンプリングします。採取したイネはモニタリングデータから収量・タンパク質含有率などを求めるために必要となります。過去の資料はこちら。
採取する箇所は毎年ほぼ同じ場所を設定しています。運用している試験サイトでは5mメッシュで管理しており、そのメッシュ内の10株程度を刈り取りします。
毎年同じ場所から採取するのは、はっきりわかる目印がないと困難です。私のところでは、事前にメッシュ位置を測り、支柱を目印として設置しています。
下図はサンプル採取した翌日(刈取り当日)に空撮を実施した画像になります。所々に穴状に写っているのが採取箇所になります。また、圃場四隅はコンバインの回転部分になるので、事前に刈り取りを行っています。コンバインの操縦が上手くなれば、四隅刈りをしなくても綺麗に刈り取れるのですが、年一回動かす程度ではなかなか技術は身につきません。
サンプル採取箇所の確認(2017年9月9日撮影)
サンプル採取箇所の拡大画像
その後、採取したイネは天日干しを行い、玄米水分を15%程度まで落としていきます。
子供の鉄棒を利用した稲架
空撮時の注意(登熟期)
2014年からモニタリングを実施して、様々な失敗や試行錯誤を経て、現在の運用体制にいたっています。今回はその中でもついやってしまいがちな失敗例を紹介します。
【失敗例】
・近接撮影によるイネの倒伏(2015年8月31日撮影)
出穂日前はイネの葉を空撮することがメインになりますが、出穂期以降(特に登熟期後半)はイネの穂には実がつき、空撮の被写体としても絵になります。そうなると、ついつい低空撮からイネの穂を撮影してみたくなってしまいます(その誘惑が失敗の原因です)。冷静に考えれば理解できるはずですが、その場で操縦しているときは撮影のことばかりが・・・。
登熟期後半のコシヒカリは、ちょっとした外部からの力(雨や風など)で倒伏しやすい状態です。その中で、対地高度約5m以下の低空撮を行えば、ドローンからのダウンウォッシュ(下降気流)でイネが倒伏してしまいます。
下図は、私が誘惑に負けて、イネを倒伏させてしまった部分になります。一度、倒伏させてしまうと、元の状態には戻りません。この経験から登熟期の低空撮には慎重な操縦を心掛けないといけないと学びました。空撮を行っている方も注意してください。
ダウンウォッシュによる倒伏(2015年8月31日撮影)
倒伏させてしまった時の近接画像(対地高度約3m)
収量予測・・・減収の見込み
8月に入ってから、オホーツク海高気圧からの「やませ」が関東地方まで流れ込んでいるため、埼玉県も日照不足となっています。東北の太平洋側(岩手県、宮城県、福島県)では、平年を大きく下回っていることから、いもち病の心配があるそうです。
試験サイト周辺の日照不足を定量的に見るために、最寄りのアメダス地点:鳩山の日照時間を8月1日~20日までまとめてみました。今年の8月1日~20日間の日照時間は36.1時間と平年の34.5%と大きく下回っています。出穂期からの日照時間は収量・食味に大きく影響します。気象庁によると8月下旬からは平年並みに戻る見込みだそうなので、晴れることを祈ります。
8月1日~20日までの積算日照時間(2014~2017)
今年も収量予測をしてみました。使用するのは7月30日の出穂期のデータになります。ただし、生育が順調に進んだ出穂期のデータなので、それ以降の日照不足を反映していません。そのため、ここで推定する値は日照不足がなかった場合の値になります。ちなみに、平年並みの日照時間があった2016年の収量結果はこちらから閲覧できます。
試験サイト全体の玄米収量予測 (ドローン): 1474 kg
8月の日照不足を考慮にいれると、この求めた推定値(玄米収量1474kg)の約20%の減収(玄米収量1180kg)になると考えています。
今年の収量から解析して得られる「単位面積あたりの収量とNDVIの相関式」は冷夏用のパラメータとして、今後の栽培に活かせるはずです。農業技術が進んでも、天候次第で収量・品質が大きく左右されるのは昔から変わりません。
倒伏リスク診断(2017年)
今年は7月30日に出穂期を迎えましたので、出穂14日前の7月16日のモニタリングデータを利用して、倒伏しやすいコシヒカリの倒伏リスク診断を行ってみました。
倒伏リスク診断の計算方法はこちらに掲載しています。
倒伏リスク診断マップ(2017年)
「7月16日(出穂14日前)のDSM-5月18日(代掻き直後)のDSM」から計算した倒伏リスク診断マップです。橙~赤色は倒伏リスクの高い株で、青色はリスクが低い株になります。今年は圃場の西側(特に南西側)で倒伏リスクが高い結果となっています。昨年は圃場の北側で倒伏リスクが高い結果となり、実際に倒伏してしまいました。草丈のむらが出ないように、圃場の均平化など努力しているのですが、均一に栽培する難しさを実感します。
2017年7月16日空撮のオルソ画像