2017年栽培
出穂期(2017年)
昨年は8月4日に出穂期となりましたが、今年は天候の影響もあって7月30日に出穂期を迎えました。昨年より5日ほど早くなっています。
穂の上部から次々に開花している様子(2017年7月30日撮影)
出穂期のバラツキが気になったので、移植~出穂の期間(2014~2017年)の気象データをまとめてみました。気象データは最寄りのアメダス地点:鳩山(直線距離:4.8km)の日照時間と気温を使用しています。
移植日~出穂期までの積算日照時間・積算温度
その結果、この地域でコシヒカリが移植してから出穂するまでに、日照時間:約400(h)・積算温度:約1700(℃)※必要であると考えられます。もちろん、この数値は地域差があるので、どこでも適応できる数値ではないと思いますが・・・これまでの既往研究について調べないといけません。
※積算温度は日平均気温を積算して計算しています。
移植日~出穂日の積算日照時間・積算温度
年 | 移植日 | 出穂期 | 日数 | 積算日照時間(h) | 積算温度(℃) |
2017 | 5月21日 | 7月30日 | 71 | 399.8 | 1697.6 |
2016 | 5月21日 | 8月4日 | 76 | 381.3 | 1774.5 |
2015 | 5月23日 | 8月3日 | 73 | 427.8 | 1742.1 |
2014 | 5月24日 | 8月3日 | 72 | 400.4 | 1714.0 |
Average | 5月22日 | 8月3日 | 73 | 396.1 | 1711.3 |
冒頭にも書きましたが、今年は7月30日に出穂期を迎えましたが、移植してから出穂までの日数は71日で、4年間の観測結果からみても特段早いわけでもありませんでした。昨年は天候不順で出穂が遅くなり、ちょうど例年の出穂期に当てはまっただけでした。自分の頭の中では、例年の出穂日の印象が強いため、今年の生育が早まっていると思い込んでいました。数字で見ると、ほぼ例年通りに生育していることがわかります。
試験サイトにおける1株当たりの茎数の時系列変化
出穂期以降もこのまま順調に生育すれば、従来から言われているように疎植しても収量は減少しないと思われます。ただ、2年連続台風による冠水が発生しているので、今年も心配です。
2017年:本田防除(殺菌)
事前に予定したスケジュールの調整が難しく、穂の一部が既に出穂してしまった状態でいもち病、紋枯れ病や内頴褐変病等に対する防除を行いました。本来なら、出穂直前に予防散布を行うのがベストなのですが・・・まだまだ天候を読む力が足りません。
また、防除を行った日は曇天で、夕方から小雨の予報だったので、少しでも早く乾燥させるために早朝から実施しました。
土日が農作業のメインになる兼業農家にとって、イネの生育状況や天候に合わせて動けないのはツライところです。
年に2回使用する動噴(自走式ラジコン動力噴霧機)
昨年は初めて散布を行ったため、機械の設定やホースの扱い方に悩まされたのですが、今年は昨年の経験も活かして、自分なりに手際よく散布を行えました。
散布の様子
次の動噴使用は、カメムシ類の防除になります。
ノンブラスフロアブル
中干し(2017年)
田植えから1ヶ月後の6月26日~7月10日まで中干しを実施しました。
営農情報によれば、中干しは7~10日間が目安となっていますが、梅雨前線・台風3号(NANMADOL)による雨の影響で、予定通りの中干しはできませんでした。
台風3号が通過してからは、最高気温が35℃以上の晴天が続き、一気に圃場の水が蒸発していきました。
昨年は中干しの確認を行うために、超低空(対地高度約5m)のマニュアル飛行で撮影しました。
今年は可視光、近赤外、熱赤外の3つのカメラで超低空(対地高度約5m)撮影を行い、中干し確認にはどれがベストか試みました。
超低空撮影(2017年7月9日撮影)
ダウンウォッシュの影響でイネが倒れた状態になってしまい、条間の土壌の様子が確認できませんでした。欠株したところで、中干しして生じたひび割れを確認できました。
上図の拡大部分(撮影原サイズ)
上空からの中干し確認の他に、地上からも確認したのが、下図になります。
地上からの中干し確認(2017年7月9日撮影)
近赤外カメラによる超低空撮影
近赤外画像では植生の分光反射が強く、土壌や水の分光反射が弱い特性があるため、中干しによる土壌のひび割れを探すのは難しいとわかりました。
熱赤外カメラによる超低空撮影
熱赤外カメラでは土壌とイネの葉の表面温度の計測できました。上図は条間部分の土壌で約40℃の高温になり、イネの葉の表面温度は約30℃の結果を示しています。今回使用している熱赤外カメラは画素数が少ないため、土壌のひび割れまでの細かい情報の抽出は難しいのかなと思いました。ただし、圃場内に水が残っているかどうかの確認には使えそうだと思います。
可視光の画像が中干し確認には一番わかりやすかったのですが・・・圃場内に入って確認するのも確実だと思います。
欠株率
田植えから1ヶ月が経過すると、苗も順調に生長し上空からのモニタリングでもはっきりと確認できます(この頃の草丈は約35cm)。
昨年からはじめた「水稲株位置の抽出」を今年も行いました。抽出方法については、昨年の記事をご参照下さい。
水稲株位置の抽出に使用した画像は、移植してから28日後の近赤外オルソ画像になります。
水稲株位置抽出(2017年6月18日撮影)
オルソ画像と抽出した水稲株位置(オレンジ点)を重畳した画像になります。両者の画像を比較してもわかるように、おおよその水稲株の位置抽出ができているのではないかと思います。
圃場全体の水稲株位置(2017年) 背景:近赤外画像(Canon S110近赤外改造)
今年は株間21cmに設定して移植を行った結果、圃場内の株数は約4.7万株となりました。ちなみに、昨年は株間18cm設定で約5.1万株となっております。
次に、水稲株をメッシュごとにまとめて可視化した結果です。
単位面積あたりの株数(株/㎡) 背景:可視画像(Richo GR)
圃場の西側は田植機の移植方向が異なる部分にあたるため、若干株数が少なくなっています。圃場内全体では単位面積あたり14.2(株/㎡)【坪あたり46.9株】となりました(昨年の結果はこちらから)。
また、株間21cmの標準的な単位面積あたりの株数は15.9(株/㎡)となります。そこで、この値を基準としてメッシュごとの欠株率を算出してみました。
欠株率(2017年) 背景:近赤外画像(Canon S110近赤外改造)
その結果、メッシュ全体の欠株率は7.9%となりました。欠株率が最も高い値を示したメッシュは、トラクタの出入り部分にあたります。それ以外のメッシュでは、だいたい数%の欠株率で収まっています。
熱赤外カメラによる空撮
少し前の話題になりますが、今年の農閑期(4月中旬)に熱赤外カメラによる空撮を実施しました。
熱赤外カメラはイネ群落の表面温度の連続観測(穂揃期)で使用しましたが、今回は圃場の地表面温度から土壌水分量および均平を把握できるのか観測してみました。
【圃場環境】
・田起しを行ってから、約1カ月経過 (試験サイトの隣(北側)の圃場も同時期に田起しを実施)
・熱赤外カメラによる空撮実施の前日に、数時間の降雨
オルソ画像(4月中旬)
熱赤外カメラ画像(4月中旬)
上記画像の拡大図
地表面温度は西側で相対的に高く、東側が低い結果となりました。特に中央部では温度が低くなっています。この部分を拡大してみると、田起し後に石拾いのために歩いた足跡周辺で地表面温度が低下していました。圃場を歩くと5cm程度は凹むので、熱赤外カメラはその影響までも観測できているのではないかと考えられます。また、西~東側に筋状に地表面温度が高くなっている場所は、昨年の収穫後に籾殻を撒いたところになります。ちなみに、隣(北側)の圃場は足跡もなく、地表面温度が一様な分布をしていることがわかりました。
わずかな環境の違いを捉えられる熱赤外カメラは有益なセンサであると実感しました。
上記の実験後に、トラクタによる均平化を行い、1週間後に再度空撮(可視光・熱赤外カメラ)を実施しました。
オルソ画像(5月上旬)
熱赤外カメラ画像(5月上旬)
トラクタによる均平化を行った後の均平精度は標準偏差1.5cmとなり、地表面温度のばらつきは前回の分布と異なる結果となりました。
西側にある給水口ではわずかな量の水が漏れ出していたため、地表面温度が低くなっています。オルソ画像では地表面の見た目の変化はありませんが、熱赤外ではちゃんと変化を捉えることができています。また、圃場の3辺(西側除く)にかけて温度が低い場所は、くろつけを行った際のトラクターの車輪跡になります。
今回の実験から熱赤外カメラを用いた観測は様々な現象を取得できるセンサとして有望なので、今後も継続して観測していく予定です。
アイガモ迷路?
モニタリング中にアイガモの来客がありました。田植え頃からどこともなく現われ、いつの間にか立ち去ってしまいます。
アイガモはイネ科の植物を食べないという習性があるので、イネ以外の雑草を食べてくれます。また、移動する際には、くちばしや足で泥水を撹拌し、雑草の繁殖も抑えてくれます。
ありがたい存在です。
アイガモの来客
対地高度50mからのドローンの風切音には驚かず、モニタリング中はずっと圃場内で食事をしていました。
オルソ画像(2017年6月18日撮影 Richo GR)
圃場内の線はアイガモが通った後になります。まるで迷路のような感じです。下はアイガモを撮影できた部分を拡大した画像になります。
上空50mからのアイガモの様子
アイガモの特性を利用して、減農薬もしくは無農薬で水稲栽培を行うアイガモ農法があります。しかし、アイガモ農法は飼育の手間、圃場を隈無く回ってくれない、カラス・タヌキといった動物に襲われるなど、決して容易な農法ではありません。近年では、こういった課題からアイガモロボットの開発がされています。市販されるようになったら、ぜひ試してみたいですね。
LIVE配信はじめました
お知らせ
LIVE配信はじめました。
水稲ドローンモニタリングを実施している試験サイトの様子を確認することができます。現在のところ、稲刈りの期間までLIVE配信を予定しています。
メニューバーの「LIVE配信」から確認することができます。
モニタリングカメラから眺める試験サイト
除草剤散布(2017年)
コメットジャンボが溶解し、除草剤が周囲に散布される様子
今年は昨年の反省も活かして、風が弱くなる日まで待ってから除草剤を散布しました。散布後は、除草の効果を高めるために、1週間は落水しないように水管理を行っていきます。
株間・条間に発芽した雑草
【使用農薬】
・コメットジャンボ(1反あたり300g:1袋)
除草剤
散布予定マップと除草剤
真夏日の田植え(2017年)
埼玉県坂戸市の最高気温は33度となり、真夏日の田植えとなりました。
今年も移植方法・肥料を変えて、栽培を行います。
昨年は株間を18cmに変更しましたが、今年は一部の圃場で21cmの疎植に挑戦です。
1)株間:21cm、肥料:基肥一発肥料「コシヒカリ一発LP485」、面積:3反
2)株間:18cm、肥料:基肥一発肥料「コシヒカリ一発LP485」、面積:2反
3)株間:18cm、肥料:基肥一発肥料「スーパーらくだ君500」、面積:1反
株間を一部変更したので、育苗箱は昨年の130箱から115箱に節減できました。今後、6反全部を21cmに変更した場合は計算上103箱で十分なので、さらにコストカットにつながることが予想できます。祖父・父の代では例年150箱(株間16cm)用意していましたが、その時と比較すると今年は約23%カットすることができました。
また、肥料は「スーパーらくだ君500」を実験的に1反の圃場で試します。この肥料は1反あたり20kgなので、「コシヒカリ一発LP485」の半分の量になります。コスト面で考えると「スーパーらくだ君」は魅力的ですが、食味に違いができるかわからないので、今年の栽培でチェックします。
基肥一発肥料:「コシヒカリ一発LP485」、「スーパーらくだ君500」
1年に1回しか使わない田植機ですが、駆動系のトラブルもなく、順調に植えることができました。使用後は念入りな泥落としが必要です。泥が固まってしまうと、取り除くのは大変です。
田植機の洗車(泥落し)
株間21cmの疎植は、周囲の圃場と比べても見た目がスカスカでちょっと心配になります。
今年の田植えの出来栄え
ちょっと大きいバケツ栽培
今年は庭先に息子専用の圃場を用意しました。水稲栽培に興味を持ってくれればいいのですが(笑)。
順調に生育すれば、9月中旬に収穫を迎えます。
【使用農薬】
・ルーチンアドスピノ箱粒剤(育苗箱1箱50g)
いもち病などの対策
【使用肥料】
・コシヒカリ一発LP485(1反あたり35~40kg:2袋)
・スーパーらくだ君500(1反あたり20kg:1袋)
代かき後のドローン計測(2017年)
ドローン計測は圃場内の凹凸をどのぐらい均平化できたかを定量的に明らかにするのが目的です。また、代かき後に水を張った状態でもドローンによるDSM計測ができるか実験を行いました。
まず、代かき後に水がなくなって土壌が見えている場合のオルソ画像とDSM(陰影図)
2017年5月18日撮影
圃場の均平精度は、圃場内の高さを測定し、それらの結果から算出した標準偏差が均平精度を示します。この標準偏差の値が大きいと圃場内の凹凸のムラが大きくなります。
目標とする均平精度は、湛水直播や乾田直播などといった栽培方法によって異なります。農林水産省の資料によると、移植栽培の場合は標準偏差:1.8cm・最大高低差:9.0cmが目標値となっています。
今回の代かきによる均平精度は、標準偏差:1.3cm・最大高低差:6.9cm となり、今年の均平化も悪くない出来だと思います。(参考:2016年の均平精度 標準偏差:1.4cm・最大高低差:6.1cm)
湛水状態(2017年5月19日撮影)
湛水状態でドローン計測して作成したオルソ画像とDSM(陰影図)
2017年5月19日撮影
この日の気象状態は、ほぼ無風で、時折微風によって水面が波を打つ程度でした。空撮時は全くの無風状態で絶好のデータ取得日でした。
水の透明度の高い箇所では底の土壌まではっきりと見ることができます。一方、泥水が撹拌してしまった箇所(圃場の西側)では土壌を見ることはできません。
これらのデータをSfM-MVS処理でオルソ画像・DSMを作成すると、泥水が撹拌している箇所ではマッチングが上手くいかず、ノイズとしてDSMの精度が落ちています。
下図は「湛水状態のDSM - 水のない状態のDSM」 の差分マップです。
湛水状態のDSM - 水のない状態のDSM マップ
泥水で底が見えなかった箇所でDSMが高い値(ノイズを含む)となったため、水の有無の差分で約10cmの差が生じました(圃場の西南側)。一方、透明度が高かった箇所では湛水状態のDSMが約2~3cmが高い結果となりました。
赤線部分の断面図
赤線部分の断面図の結果から、湛水状態のDSMが一定の高さを示していないので、水面の高さより圃場の高さが影響していると考えられます。水深や水の屈折率を用いて計算すれば、湛水状態でも圃場の高さを取得できる可能性があることが今回の実験でわかりました。
ただし、代かき後(湛水状態)に計測する場合、無風かつ泥が撹拌していない状態でないと精度の良いデータを取得することができないため、撮影条件は結構厳しいと思われます。
来年以降も代かき後は水がない状態で計測するのがベストなのかもしれません。